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第785話

自室に戻り、スマホを確認して。 今日の朝までは一緒にいた雪夜さんに、お疲れさですとオレがLINEを送っていると、ドアの向こうからコンコンとノックの音が聴こえてきた。 「はーい?」 扉を挟んだまま、オレは返事をする。 LINEが送信されたことを確認して、とりあえず何事もない状態を装い部屋のドアが開くのを待つ。 兄ちゃんはきっと今頃お風呂にいるだろうし、兄ちゃんだったらオレの部屋に勝手に入ってくるから。オレに用がある人は、ノックした後に入っていいか聞いてくる父さんか、ノックの後に返事があったら一声かけてくれる母さんかのどちらかだと思った。 「……星、入るわよ?」 その言葉と同時に、開いた部屋の扉。 どうやら、オレに用があるのは母さんみたいだ。 ベッドに腰掛けているオレをチラリと覗いた母さんは、ふわりと微笑んだ後にオレの前までやってきて口を開く。 「私から、星に少し話があるの。椅子、借りるわね」 「え……あ、うん」 母さんはそう言うと、勉強机の前の椅子を引っ張り出してソレに腰掛けた。母さんの手には大きめの茶封筒が握られていて、なんだかよくない話をされるんじゃないかと思い、オレは少しだけ背筋を伸ばし母さんを見る。 オレとそっくり……というよりも、オレが母さんに似ているのかもしれないけれど。大きな黒い瞳と、自分の親なのに年齢がよく分からない見た目は、オレが小さい頃から変わらなくて。 肩まである髪を首の横で一つに纏めた母さんの姿を、最近は追いかけるようにして眺めることもなくなったんだと思った。幼い頃は、母さんがいないと寂しくて不安で。そんなオレの気持ちを、一生懸命慰めてくれていたのが兄ちゃんだったなって。 過去を振り返り、今日の出来事を振り返っていたオレは、知らない間に段々と親離れしていることに気がついた。 「星の就職のことと、これからのことを考えて、星は今のうちに運転免許を取得しておいた方がいいと思うの」 話し出した母さんは、持っていた封筒をオレに差し出してくる。渡された物を受け取り、オレはその中を覗きながら首を傾げて。 「……免許?」 「そうよ。短期の合宿で取るか、通いで取るかは星が選べばいいけれど、貴方は光と違って大学生の間に取りに行くことが出来ないわ。来年の春には社会人になる身の貴方は、今取っておくのが得策だと思うから」 母さんがピックアップしてくれたらしい自動車学校のパンフレットを封筒から引き抜いて、オレはその一つ一つに目を通していく。 「父さんと二人で考えて、今しかないわねって話になったのよ。本人確認のための証明にもなるし……これから先、貴方一人でさまざまな手続きを踏まなきゃならない時が必ず出てくるから。取りに行きなさいね、免許」 「うん、分かった……分かったけど、ちょっと考えさせて。友達にも聞いてみて、それからどの学校行くか決めてもいいかな?」 「それは構わないわ。もし合宿なら、友達同士で行ってくれた方が母さんも安心だわ」

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