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第789話

【雪side】 優と話した、次の日。 独り大学内を歩いていた俺は、今一番会いたくない人間に出会ってしまった。 何故、このタイミングなのだろう。 昨日の今日で、気持ちの整理もろくについてないままだというのに。 何もない廊下ですれ違い、一度合った視線を逸らすわけにもいかず、立ち止まった相手に合わせ仕方なく俺も立ち止まるしかなくて。 「お帰り、ユキちゃん。補習ご苦労様だねぇ……ってことでさ、俺に付き合って」 ……ほら、見ろ。やっぱり、会っちゃいけねぇー野郎じゃねぇーか。 誰に言うわけでもなく心の中でそう呟いた俺は、未だ黒髪の王子様に連れられカフェテリアへと移動した。 丸いテーブルを挟み、向かいにいる光は優同様で。完全に生気を失った表情で俺を見つめ軽く微笑むと、またすぐ笑顔を消し去り声を出す。 「ねぇ、ユキ……昨日は、俺の執事と何処でナニしてたのかな?せいはね、俺とデートしてたの」 言葉が、出なかった。 息を呑むことしかできない俺は、返答するための言葉を探して頭をフル回転させる。 光の勘の良さは知っているが、ただの勘だけでここまで聞いてくることは不可能だろう。だとすれば、光は優の行動を最初から読んでいたに違いない。 分かっていて、泳がせた。 俺が問いに答えない代わりに、光の瞳はそう俺に訴えていて。 「女との密会ならまだ許せるけど、俺にナイショでお前に会った男が、今どうなってるか考えてごらん?」 しらを切り通すことは、できそうにない。 優とは確かに光の話をしたし、それだけではなく星のことについての話もした。優が光に隠し通して来ているものだと思い込んでいた俺が悪いのだろうか。 何処までこの王子様は、執事のことを知っているのだろう。いっそのこと、コイツに見せてやりたい。俺が昨日見た優の笑顔を、お前だけを愛して心を傷めている男の姿を。 「……ナニ、監禁でもしてきた?」 探り探り話を進める手段を取った俺は、そう光に投げ掛けて王子様の出方を窺う。 「あながち間違いじゃないけど、それしても口を割らない生意気な執事なんだよね。夜中でも呼んだら飛んで来るくせに、俺じゃなくてお前を庇うのはどうしてだと思う?」 「俺、お前みてぇーに頭良くねぇーから分かんねぇーわ。逆に教えてくれよ、先生?」 昨日の夜、星から送られてきたLINEに書いてあったこと。この悪魔が先生になるって、雪夜さんは知ってましたかって。そのLINEが送られてくる数時間前に、俺は優からその事実を聞かされていたけれど。 神経を減りすらせるような光とのやり取りは、正直頭が痛くなる。逃げられるものなら逃げ出したいが、そうも出来ずに腕を組んだ俺は、光の瞳を真っ直ぐに見つめた。 「……分かった、俺の負けでいいよ。昨日の夜中、どうしても我慢出来なくなって俺から優に連絡したの。すぐに会いに来てくれた優から、ユキの煙草の匂いがしたんだ」 俺と別れた後、どうやら優はそのまま光の元へ向かったらしい。 「やっぱりなって、思った……それなりに長い付き合いだから、優の嘘なんて簡単に見抜けるの。俺との別れを決めたからって、月曜の夜は女性と飲みに行くから予定が空いてないって」

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