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第790話
いくら嘘を並べたところで、光は優の嘘を見抜く。嘘だと分かっていて、それでも光は優を止めることをしなかった。もしかしたら、泳がせていたのではなく、単純に止めることが出来なかったのかもしれない。
この男は、俺が思っている以上に弱い。
優の存在があるからこそ、アイツの支えがあるからこそ、コイツはアホみたいに輝いた笑顔を振り撒いて生きていけるのに。
その存在を手放してしまったら、最後だ。
分かっているようで、自分のことを一番理解出来ていないのは光自身なんじゃないかと思う。お前はそこまで背負える人間じゃないと、もう充分だと言ってやれたなら、光は優を選んでくれるのだろうか。
俺がそんなことを思っていると、俺との話の駆け引きで敗者と化した光は、色を失ったままの瞳を俺に向けて口を開く。
「ユキはいつから、女になったんだろうって思ったよね。思ってたけど、黙ってた……嘘が本当になればいいって、優が女を選んでくれたらいいなって。だから昨日は、色んなことを考えないようにせいをデートに誘ったの」
「アイツに余計なこと、吹き込んでくれてありがとさん」
「ああ、ゲーセンの話ね。楽しかったよ、すっごく楽しかった。でもやっぱり、我慢出来なかった……会わなきゃ良かったって、今は後悔してるけど」
手放す覚悟はあったとしても、そう簡単に離れられる関係じゃない。求めているものはお互い同じなのだから、互いの存在こそが何よりも愛おしいはずだから。
光の心の葛藤を思ってやるだけで、こんなにも胸が痛むのは、俺が愛する人を見つけ出せたからなんだろう。星は、アイツは今頃何をして、どんな顔をしているんだろうか。
この男が自分の人生と引き換えに、星の幸せを望んでいると知ったら。星は、大きな傷を抱えることになる……そうさせないために光は、ずっと隠し通してきたんだろうけれど。
光が傷ついた分だけ、結果的には星も同じように傷ついてしまうことに、光はまだ気づいていない。
「俺と優が別れること、優はユキに話したんでしょ?それ以上のことまで優が喋ったかどうかは知らないけど、俺の気持ちは変わらないから」
変わらないから、余計な口出しはするなと。
遠回しに釘を刺された俺だが、光は優が俺にどんな話をしたのかおおよそ見当がついているのではないかと思った。光は、俺が星の名に隠された真実を知ったことに、おそらく気づいている。
しかし、勘づいても口にはしない。
それはずっと、コイツらに対して俺がしてきたことで。俺は光に釘を刺されたものの、ある程度の自由を与えて貰えた証拠となる。
言葉の端々から零れ落ちる光の本音は、随分と弱々しい。我慢出来ないくらいに優が好きなのなら、最初から我慢なんてしなければいいだけの話だ。
「これは優にも言ったけど、別れんなら好きにしろ。俺がどうこうしてやれる問題じゃねぇーし、まずそれ以前に答えなんてねぇーからな」
「ユキ……」
「ただ……星はもうお前のものじゃねぇーから、賭けに勝ったのは俺だ。それだけは、何があっても忘れんなよ」
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