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第792話
さてさて、困ったもんだ。
どうにかするつっても、どうやってアイツらを丸め込めばいいのか分からない。
星の両親には、年明けくらいに挨拶出来たらと俺は勝手に思っているけれど。その前に、光のことで星くんから別れようとか言われちまったら、俺の計画は散々な結果で終わってしまう。
今まで隠されていた事実を、星にいつ告げたらいいものかと頭を悩ませても。これといって良い考えが浮かばない俺は、カフェテリアを出て喫煙所に向かった。
外に出てみれば、しとしとと降り注ぐ雨音と共に冷えきった空気が全身を覆う。
今日の朝は、晴れていたのに。
変わりやすい天気の中、雪夜さんはやっぱり雨男ですねって、俺の隣で笑ってくれる星が恋しくてたまらなくなった。
寒さに震えつつ、吸い込んだ煙を吐き出して。
このご時世で、煙草吸ってる男は嫌われるんだろうかとか。嫌われたとしても、星の両親に媚び売るように煙草を辞めるのは違う気がするとか。
まぁ、そんなことよりも。
男同士の付き合いを、認めてもらえるのかどうかとか……星には言えない悩みを抱え、見上げた空は灰色に濁ったままだった。
光は、一体何処まで俺と星との関係を両親に告げているのだろう。週末の泊まりも、月曜の朝は家に帰ることなく登校することも。快く許可は下りているらしいが、青月家は厳しくもないが甘くもないと前に光が言っていた。
星の成績が良いのは、俺との時間を得るためなのは知っている。ある程度の自由を勝ち取るためには、それなりの努力を要するから。やるべきことをやっていれば、星の両親は逆に何も言わないのだろうか。
そんなことを考えながら、俺が喫煙所から立ち去ろうとした時。羽織っていたコートのポケットに突っ込んであったスマホが震え、俺はソレを手にし立ち止まる。
「……誰だ、この番号」
非通知ではない、しかし電話帳には登録されていない番号から掛かってきた一本の電話。星と付き合う前に遊んでいた女からか、はたまた仕事先の先輩コーチか。
見当もつかない相手からの電話に、俺は一瞬出ることを躊躇ったけれど。仕事関係の連絡だとしたら、出ておいた方がいいと思った俺は、通話ボタンをタップし恐る恐るスマホを耳に当てた。
『もしもし……あの、こちら白石雪夜さんの携帯でお間違いないですか?』
電話口から聴こえてきた声は、女の声だった。
内心、やっちまったと思った俺は、とりあえず相手が誰かを知るために最低限の返事をする。
「はい、そうですけど」
名乗られたところで、過去に抱いた女だったら俺は誰一人として覚えていない。相手の要件次第では、すぐ切るつもりでいた……のに。
『突然のご連絡、お許しくださいね。うちの子達がいつもお世話になっております。私、青月光と星の母です。白石さん……今、お時間宜しいですか?』
何が、どう、なってんだ。
誰かこの状況を説明出来るヤツがいんなら、今すぐ俺に教えてくれ。
そう、思ってしまうほどに。
予想外過ぎる相手からの問いに俺はしばらくの間、答えることが出来ずにいた。
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