796 / 952
第796話
「貴方がいなくなってから星はあまり笑わなくなったわ、まるで抜け殻みたいだった……その時気づいたのよ、あの子が大切に思う人なら性別なんて関係ないんじゃないかって」
ちょっとした子供の変化に、星くんの母親は気づいてくれたそうだ。さすがあの兄弟の親と言うべきなのだろうか、優しさに溢れた表情で俺を見つめる星の母親は、やはりどこか暖かく感じる。
「だから光には、半年間を二人が乗り越えられたら星と貴方の付き合いを認めるって言ったわ。離れていてもお互いに想い合えるのなら、認めるも何もそれは愛だから。昨日の星の姿、貴方にも見せてあげたいくらい」
「星くんの姿、ですか?」
「貴方が帰国して、星が泊まりから帰ってきたのが昨日だったでしょ?光との約束の日だったから、貴方と星の関係を知らないフリをして私が星に聞いたのよ。最後の確認の意味を込めて、彼のことは好きかって……そしたらあの子、愛された証を隠すこともせずにとても素直に頷いたわ。ふふっ、若いっていいわねぇ」
「いや、あの……」
一般的には受け入れてもらえないはずの関係を、認めてもらえたことは感謝の思いでいっぱいだけれども。話に落差があり過ぎて、俺はついていくのにやっとだってのに。星の母親は口籠もった俺を見て、それはそれは楽しそうに目を細めて笑っている。
「あら、照れないで?貴方思っていたより可愛い人なのね、そこはもう堂々としていていいのよ?」
……いやいや、無理だろ。
相手の親に自分がつけたキスマ見られて恥を感じないほど、俺の心は強くない。なら最初からつけるなと言われたら、それもまた無理な話だが。
和らいだ空気に包まれ、俺からつい洩れた笑みを見逃さなかった星の母親は、安堵したように肩を撫で下ろし息を吐く。
「星の恋人として、光のお友達として、ひとつ貴方に聞きたいことがあるの。光は、あの子は星と同じなんじゃないかと思うのよ……だってほら、おかしいと思わない?」
「それは……」
同じ、その意味は同性の恋人がいるということ。女の勘か、親だからこそ見抜いたものなのかは分からないが、星の母親の考えは何ひとつ間違っていない。
「いくら弟の幸せを願うからって、あの光があんなに必死になるかしら?あの子はね、本来は自分が一番じゃないと気が済まないタイプなの。そんな光が、貴方と星の関係についてだけは自分のことのように頭を下げていた。過呼吸になって、倒れたこともあるくらいに」
それは全て、星がいない間に起きていた出来事なのだろう。俺が日本にいなくても星は週末、俺の家にいたから。光自身、同性と関係がある身だ……俺たちのことを認めてもらえないということは、自分を否定されるのと変わらない。
そんな光の姿に星の母親は疑問を抱き、今俺の前にいる。言うべきか、否か……躊躇している俺に、星の母親はこう言った。
「光のこと、何か知っているなら教えてほしいの。貴方はもう部外者じゃないわ、貴方が私達と家族になる気があるなら尚更……ね?」
ともだちにシェアしよう!

