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第797話

全てを見越した上で、星の母親は俺と会うことを決めたのだろう。俺の帰国を合図に一気に動き出した歯車は、もう誰にも止めることが出来ないけれど。 「僕が知っている範囲で、星のことも含めてお話します。ですが……貴女にとって、辛い過去を蒸し返す話になってしまうことをお許しください」 光が持っている罪の意識は、星の母親にも辛いものになる。そう思い、先に謝罪の前置きを入れ、俺は自分や星のこと、そして光と優のことを包み隠さず星の母親に打ち明けた。 俺の話を聞く間、星の母親は笑うことも怒ることもなく真っ直ぐ俺の目を見て話を聞いていて。俺達四人の関係性を一通り星の母親に説明した俺は、冷えきったコーヒーを口にする。 「……そう、光は随分前から知っていたのね。あの子のせいなんかじゃないわ、責任は全て私にあるのよ」 「光は、そうは思っていません。星のために、貴女のために、自分自身のために……光は、アイツは優との関係を断ち切ろうとしているくらいですから」 子供が抱えた苦しみを知り、ショックを感じないわけがない。それでも、星の母親は俺の前で取り乱したりすることはなかった。 「……確かに、孫の顔は見たいわ。どんなお嫁さんを連れてくるのかしらねって、主人とよく話したものだから。息子が二人とも同性を愛しているのなら、それはもう叶わぬ夢なのね」 「新しい命を授かることは、俺たちには不可能です。星だけではなく、ご家族からも一般的な幸せを奪うことになってしまいます。本当に、申し訳ありません」 「貴方が気に病む必要はないわ……子供の幸せは、親の幸せになるものなのよ。光が産まれた時に、主人と二人で決めたことがあるの。どんな人生を歩もうと、子供が感じる幸せを私たちは守り抜いていこうって」 そう語る星の母親も、そしてここにはいない父親も。子供の意識を尊重しようとする、本当に良い両親なのだろう。だからこそ光は、そんな両親に反抗することなく罪を独りで背負ってきてしまったんだろうけれど。 「だけどね、子供の全てが分かるわけじゃないわ……苦しみも、幸せも、感じた本人にしか分からないことは沢山ある。そんな時に寄り添える相手は、親じゃないことも分かっているつもりよ」 「俺は、どうすべきなんでしょうか……星に真実を話していいものか、わかりかねます。光のことも、星が知ったら傷つく内容ですし……」 「星の名前の由来は、あの子が成人したら話すつもりでいたの。でも、貴方が思うようにやってみなさい。星を幸せへと導けるのは、もう貴方しかいないんだから」 「ありがとうございます。本当に、感謝します」 厳しくもないが、甘くもない。 けれど、包み込まれるような優しさに、とても安堵した俺がいる。 「貴方一人でどうしょうもなくなった時は、しっかり手を貸すから大丈夫よ。光のことも、少し考えてみるわね。貴方と星の同棲については、主人と話し合って許可を出すか決めるわ」

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