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第799話

何があったのか。 詳しく聞きたいところではあるが、その前に俺は星が今何処にいるのかを尋ねた。すると、星くんからの返事は俺の家にいると返ってきて。 仔猫が安全な場所にいることを確認出来た俺は、すぐに帰るから待ってろと伝え、通話を切ることなく車内用のハンズフリーに切り替えた。 駅から自宅までの距離ならそう遠くはないけれど、例えその少しの時間でも泣いている星を放っておくワケにはいかない。 陽が短い冬の季節。 外は既に真っ暗だが、時間的にはまだ夕方頃で。雨も降っているし、この時間だと帰宅ラッシュに巻き込まれることを覚悟した俺は、駅前の大通りではなく裏道を抜けていく選択をした。 これが吉と出るか、凶と出るかは分からなかったが。幸いにも車通りは少なく、これなら星を落ち着かせるために話をしていれば、その時間で家まで辿り着くことが出来そうで。 『雪夜さん、ぅ…オレ、どうしよ…』 「大丈夫だから、とりあえず俺がそっち着くまで声聴いてろ。星くん、今日はココアとカフェオレとカフェモカ、どれにすんの?」 雨音に負けそうな小さな声を聞き取りながら、俺は星との会話が途絶えぬように話を進めつつ、運転にも集中する。 『ふぇ…ぁ、ココアがいい、です』 「ん、分かった。ステラ傍にいんだろ?俺の代わりにお前のこと温めてくれっから、ちゃんと抱っこしとけよ」 『抱っこ、してます……ぎゅって、してるもん。でも、雪夜さんがいないのはっ……もぅ、イヤだ』 ……あー、ヤッばい。 クッソ可愛い、星くん……って、今はそんなこと言える状況じゃねぇーんだった。 聞き分けのいい仔猫が、何故家に帰ろうとしないのか。その理由を星の呟きから予想してみても、的を得るような答えは見つからない。 昼前に兄に会い、昼過ぎに母に会い、そして今度は弟……俺が愛する星くんはいいとして、どうせならもう青月一家としてやってくればいいものの、個々とそれぞれ話をした俺は、そのうち父親が現れやしないかと、内心不安を感じていた。 真面目で、頑張り屋さんの優等生。 そんな星くんが家出したなんてことになれば、星の親も心配するだろうと思う。あの母親なら笑って済ましてくれそうではあるが、それは星が家に帰りたがらない理由によりけりだとも思った。 「星、もう着くから家の鍵開けとけ」 雨脚は強くなる一方で、ワイパーの動きは早くなる。この雨の中、辿り着いたマンションの駐車場に車を駐め、スマホを片手にエントランスまでダッシュして。 ジャケットについたいくつもの水滴を払うこともせず、濡れたままの身体で俺は家へと急いだ。 普段なら、しっかりと閉ざされている家の玄関。それを鍵を使うことなく開いていくと、そこには俺のパーカーに身を包み、ステラを抱えて立ち竦む仔猫がいて。 「……雪夜さっ」 「ごめん、独りにさせて悪かった」 抱き寄せたカラダは小さいけれど、溢れる涙は大粒で。支えがなければ今にも崩れ落ちそうな星は、俺の腕の中で声を上げて泣いていた。

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