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第808話

【雪夜side】 ようやく、長い1日が終わった。 なんてことはなく、部屋の時計を見れば、まだ日付が変わる前だった。俺のベッドで眠りに就いた星の髪を撫で、腫れた瞼にキスを落として。 今日ほど濃密な1日はないんじゃないかと思うくらいに、疲労を感じている俺の身体は瞳を閉じたらそのまま夢の世界へと飛んでいきそうだけれど。 「……やり過ぎた」 星は明日も学校があるというのに、欲に任せて抱き潰してしまった独り反省会は終わっていない。それに、俺には考えなきゃならないことが山ほどある。 家出少年になった星くんをどうやって家に帰すかとか、星に光の話をするタイミングとか。仔猫さんの荷物が増えたこの部屋を見渡し、やっぱ部屋数が多いマンション探そうって思ったりとか。 1日を振り返ってみても、それだけで1週間は寝ずに頭をフル回転させることが可能な今日の出来事。 一か八か……この時に賭けてみようと思い、俺は星に名前の由来について話してしまった。荒治療だったのかもしれないが、気持ちがドン底まで落ち込んでいた星にとってはある意味良かったのだろう。 どうしたらいいのかは、俺も星もよく分からない。ただ、伴に生きていきたいとお互いに強く思えただけで。今日の星くんはそれだけで充分、流した涙以上の強さを手に入れたような気がする。 1日で急成長していく星の心は、家族と向き合う決心をした。一度は分からないからと逃げ出しても、目を背けてしまっても。分からないなら分からないなりに、それでもいいから現実を受け止めていく。 そんな大きな勇気を、この小さな身体に宿して。俺より数十倍男前な恋人は、これからもこうしてさまざまなことに悩み、傷つき、大人になっていくのだろう。 その度にあんな可愛いことされたら、俺は毎回独りで反省会開かなきゃなんねぇーけど。 「さすがにいてぇーな、コレ」 そう呟き、スウェットの襟から胸元を覗き見た俺は苦笑いを洩らす。星くんに殴られた痕、愛おしそうに何度もキスをされた場所。 いくら身体が小さくても、俺との力の差は歴然だとしても。星だって男なワケだから、繰り返し同じところばかりを殴られ続ければ、それなりに痛みは強く残ってしまう。 爪痕も、噛み痕も。 俺のカラダに残る数々の傷痕は、風呂場で散々愛し合った証拠だけれども。成長途中の仔猫を飼い慣らすのは、本当に一苦労で。 子供のように泣きじゃくっていたかと思えば、次の瞬間笑顔に変わったり。そうかと思い、こっちが安堵すれば、今度は大人びた表情で欲を煽りにかかってくるし。 好きだからその全てを許してしまうけれど、これが星意外の相手だったなら、俺は今頃犯罪者だって……そんな俺の危ない思考を止めたのは、スマホのバイブレーションだった。 「だろうな、起きてて正解ってワケか」 ディスプレイに表示された名前は、今日初めて顔を合わせたばかりの星の母親で。おそらく俺の元に連絡がくるであろうと思っていた俺は、驚くこともなく通話ボタンをタップした。

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