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第810話
「……雪夜さん、起きてください」
星の愛らしい声で目覚める朝は、寒い冬も暖かく感じて。部屋に漂うトーストとコーヒーの香りに、寝起きの頭が冴えていく。開かれたカーテンの向こうから射してくる光に照らされ、天使のように微笑む星くんと俺は目が合った。
「はよ、星くん」
「おはようございます、ゆきっ…ん、もぅ」
朝の挨拶を交わし、俺はベッドの際にいる星の唇にキスをした。俺より先に起き、朝食を作り終えてから俺を起こしにきたらしい星くんは、顔を赤くしつつも俺がベッドから抜け出すのを待っていて。
そんな星の頭を撫で身体を起こした俺は、ベッドからソファーへと移動し、星に声を掛ける。
「お前今日起きんの早ぇーな、俺が朝飯作る予定でいたのにもう出来てるし。身体辛くねぇーの?大丈夫か?」
「身体は色々と大丈夫じゃないですけど、なんか目覚めがスッキリしてたので。たぶん、コーヒーは丁度いい温度なはずです。あ、あと、コレどうぞ」
そう言って俺の横に腰掛けた星は、煙草とジッポを俺に手渡してくれる。そして、俺の前に灰皿を置くことも忘れない。昨日の行為で得た痛みは引かないのか、腰を庇っているように見えるのが少し心苦しくなるけれど。
星から差し出された物を俺はありがたく受け取り、煙草を吸う前に口付けたのは適温になったコーヒーだった。
「……あー、すげぇー美味い」
俺からつい洩れた言葉に、星くんは安堵した様子で。嬉しそうに微笑んだ星は行儀よく両手を合わせ、テーブルの上に並んでいる朝食に手を伸ばす……かと思いきや、星くんはその手を止め呟いて。
「あの、昨日はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。雪夜さんの方こそ、大丈夫じゃないですよね?オレ、その、ごめんなさい」
「迷惑だなんて、思うワケねぇーだろ。俺は気にしてねぇーから、んなこと気にすんな」
星より遅く寝て、星より早く起きることが多い俺は、この最高の朝に隠されている星の気持ちを感じ取る。二人で幸せな朝を迎えられるように、俺に尽くすように用意された朝食は、昨日のお詫びを含めたものなのだろう。
根が真面目な仔猫さんは、自分が居候になっている気分なのかもしれない。怠いカラダを無理に引き摺り、俺より先にベッドからいなくなったのがその証拠と言えるけれど。
俺にとっては、傍にいてくれるだけで充分過ぎる存在で。トーストへと伸びて止まったままの星の手に指を絡め、俺はもう何度目か分からない大丈夫の言葉を送った。
それでも、まだ言いたいことがあるのか、俺の手を握り返してきた星くんは、ボソボソとこう呟いたのだ。
「雪夜さん、あのね……ご飯作りながらオレなりに考えてみたんですけど、クリスマスまではここにいさせてもらえませんか?えっと、両親にはちゃんと話して分かってもらうようにするので。だからっ、その」
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