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第811話
一生懸命に自分の考えを伝えようとする姿勢、繋いだ手に込められる力は自然と強くなる。それが星の気持ちの大きさだということは、言葉にせずとも感じ取れるもので。
「分かった。クリスマスまでって言わずに、ずっと居てくれていいんだけど……今の状況じゃ、そういうワケにもいかねぇーからな」
繋いだ手を引き寄せ、俺の胸に倒れ込んでくる星くんを抱き締めて俺はそう言った。
本当はこのまま、同棲生活を開始したいところではあるんだが。何の問題も解決していない中、まるで駆け落ちでもするかのように二人で暮らし始めるのは、星も納得しないし、俺の立場がなくなるだけだから。
今はまだ、焦る気持ちを抑えて。
星と伴に歩んでいけるように、小さなことから一つずつ壁を越えていかなければならない。
「お前の両親なら、ちゃんと話せば分かってくれるから。今日の放課後でもいい、早いうちにお前が決めたこと親に伝えてこい」
「うん……オレ、頑張ってみます」
腕の中で、コクリと動く頭。
声は掠れ弱々しいが、その言葉にはしっかりとした強さがある。立ち向かう勇気、一歩踏み出す勇気……もう逃げないと誓うように、星は俺を見上げ俺が好きな笑顔を見せてくれる。
「星くん、愛してる」
「オレも、雪夜さんが大好きです」
どれだけ昨日が苦しくても、今日も同じ苦しみが待っているとは限らない。その逆も然りではあるが、昨日の泣き顔の後の今日の笑顔は、なんとも愛おしいものだった。
二人並んで朝食を済ませ、二人並んで洗面台の前に立ち、お互い身支度を整えて。星くんの登校時間に合わせ家を出た俺たちは、学校まで向かう車内でも話し込んでいて。
「クリスマスまでってオレ決めちゃいましたけど、1週間ないですよね。雪夜さんが帰国して、まだ1週間経ってないのに」
「ああ、そういやそうだな。今日水曜だろ、俺が帰国したの金曜だったし……今年のクリスマスイヴは日曜か、日曜がイヴとかえげつねぇーわ」
制服の上からコートを着込み、助手席から俺をチラ見する星くん。そんな星を高校へ送り届けるため、俺は送迎係になっているけれど。こうして二人で話す何気ない時間も、俺たちにとっては大切で。
話題は今年のクリスマスについてや、時の流れの感じ方に違いがあることだったりした。離れていた時は永遠のように長く感じる時間、それが二人でいる時は驚くほど早く過ぎていくから。
「1日24時間って決まってるのに、それが変わることはないのに……時間の感覚って、本当に不思議です。雪夜さんに学校まで送ってもらう時も、あっという間に着いちゃうんだもん」
「まぁ、車だからってのもあっけど。とりあえず、あと数日は毎日同じベッドで寝れんだからいいだろ」
離れるのが寂しいのは、俺も変わらない。
けれど、聖なる夜が終わるまで、星くんは家出少年で。今日の夜も星を抱いて眠りに就けることを思えば、感じる寂しさも少しは我慢出来る気がした。
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