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第815話
【星side】
部屋の中に薄らと入ってくる陽の光、冷える朝の空気を感じ、それがオレを抱き締め眠る雪夜さんの温もりを強く感じさせて頬が緩んでしまう。
オレより遅く寝て、オレより早く起きることが多い雪夜さんだけど。今日はオレの方が早く起きて、いつも雪夜さんがしてくれるみたいな幸せいっぱいな朝にしようってオレはこの時思ったんだ。
身体はクタクタなはずなのに、心はやけに晴れ晴れしているから。ドン底まで落ちていた気持ちを、ここまで爽やかなものに変えてくれたのは雪夜さんしかいなくて。
小さな勇気が芽生えた朝は、たくさん迷惑を掛けてしまっている雪夜さんのために、尽くしてあげたいなって思ったことが1日のスタートになった。
でも、本当は。
だめって言ったのに、昨日はオレの言うことを聞かずにお風呂場でえっちなことしちゃうし。まるで小さな子供みたいに無防備で、可愛い寝顔を見せてくれる雪夜さんは嫌い……だと思えたら、どれだけいいだろうって。
そんなことも思いながら、足腰の痛みと、それを補うのには充分過ぎるくらいの愛らしい表情を見つめ、気持ち良さそうな安心しきった様子で寝息を立ている恋人の唇に、オレはそっとキスをした。
「ちょっとだけ離してくださいね、雪夜さん」
まだ夢の中にいる雪夜さんを起こしてしまわぬように、オレはそーっと、そーっと、声を掛け、ゆっくり、ゆっくり、ベッドから抜け出すとソファーにいるステラを持って雪夜さんの腕のあいだに忍ばせていく。
「ん、せぇ…ぃ」
吐息混じりの小さな声でオレを呼んだ雪夜さんは、腕の中におさまったステラをぎゅーっと抱き締め、そのまま動くことはなかった。
もちろん、息が止まっているとかそういうことじゃないんだけれど。一瞬、起こしてしまったんじゃないかとヒヤリとしたオレには、この表現が一番しっくりくる気がして。
雪夜さんが完全に睡眠中なのを確かめてから、オレは自分の腰を片手で擦りつつスマホを手にしてベッドの際に立つ。そして、ステラの両耳のあいだに顔を埋めて、ぬいぐるみを抱いて眠る雪夜さんの姿を微音のカメラアプリで写真に撮ってすぐに保存したんだ。
だからこれは、雪夜さんが知らない朝の風景……の、はずだったんだけど。
「……ふーん、なるほど。その写真がコチラでーすって、ことかよ?すっげぇ、イケメンって一周まわると可愛くなんだな。なぁ、セイ、これホントにあの人なのか?」
「勝手に人のもの見ちゃダメだよ、弘樹くんッ!青月くんごめんね、うちの弘樹くんは青月くんの彼さんと違って、本当に手に負えないバカで困る」
「気にしないで、西野君。今日1日、お守り代わりに雪夜さんの写真をスマホの壁紙にしてるんだ。だから、見られてもいいようなことしてるオレが悪いんだよ……んー、でもやっぱ弘樹も悪いことにしよう」
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