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第817話

学校の授業も終わり、極度の緊張感から吐き気を覚えつつも辿り着いた家の前。自分の家に帰るだけなのに、こんなにも緊張したことは未だかつてなかった。 深く息を吸い込んで、その息を吐くと同時に一気に開いた玄関のドア。そこから一歩中へと踏み出す足は、力強くはないけれど。 もう、逃げないって決めたから。 両親に何を言われようと、どう思われようと。 オレが好きな人は、変わならない。 だから、勇気を出して伝えなきゃ。 両親には、謝らなきゃならないこともたくさんある。幸せにできなくてごめんなさいって、こんな子供でごめんなさいって。名付けられたような人間にはなれないし、オレは心のどこかで、オレはオレだって思ってしまうから。 謝って許してもらえるなんて、思わないけれど。自分の想いと考えを伝えなければ、オレも雪夜さんも先には進めない気がして。 弱虫な自分に、自信は持てない。 でも、こんなオレを愛してくれる雪夜さんがいるって思えば、それはとても大きな自信に変わっていく。 大切な人なのは、家族も雪夜さんも変わらない。大切な人だから、オレのことを分かってもらいたい。 そんなたくさんの決意を胸に。 リビングの扉を開いたオレは、ソファーでゆったりと独りの時間を満喫していたらしい母さんと目が合った。平日は仕事があったり家にいないことも多い母さんだけど、今日はこの時間から家にいて。 「星、おかえりなさい」 「……ただいま、母さん」 いつもと、変わらない。 母さんの暖かくて優しい微笑みに、鼻の奥がツンとする。でも、どう話を切り出せばいいのか分からないオレは、軽い挨拶だけ済ませて無言のまま母さんが座っているソファーへと腰掛けた。 緊張感なのか、外と室内の温度差を感じたからなのか。じんわりとかき始めた汗が気持ち悪くて、オレは羽織っていたコートを脱いでマフラーを外す。 母さんが好きな海外ドラマの音がテレビから聴こえて、でもその音は段々と小さくなって。 「ねぇ、星……家出してみて、どうだった?」 オレとは交わらない母さんの視線の先には、ローボードの上の写真立てがあり、呟かれた言葉が酷く胸に刺さる。オレが小学校に入学した時に家族みんなで撮った写真、何処にでもある幸せを映し出したソレは、今の母さんにはどう見えているのだろう。 「……ごめんなさい」 膝の上で握った拳は行き場のない罪悪感を現し、オレは結局、母さんの顔を見ることができずに俯きながら謝罪するしかなかった。 どんな返答がくるのか、待つ時間は怖い。 でも。 オレの母さんは、どんな時だって母さんで。 「家族より大切な人と一緒にいる時間は、星にとって悪いことなのかしら?」 「……え?」 「自信を持ちなさいと言ったはずよ、星……分かっているから大丈夫、もう隠さなくていいわ。だから貴方が好きな人の名前、言ってごらんなさい」

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