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第818話
母さんは、すべて分かっているんだ。
自信を持てと言われたこと、母さんに言われた『彼』は、雪夜さんだってこと。オレが何も言わなくても、母さんは気づいていたんだって。
バラバラだったパズルのピースがピタリと合わさっていくように、ひとつひとつの言葉や想いが繋がっていく。
そして。
「オレは、雪夜さんが好き」
母さんの前で、ハッキリと口にした気持ち。
雪夜さんといる時とはまた違う鼓動の音を感じつつ、オレはまっすぐに母さんを見つめる。
「星、それでいいのよ。子供はね、いつかは親の手から離れていくものなんだから……星の好きな人が同性だとしても、私は目を瞑るわ。だからね、自分の気持ちに嘘はつかないで」
「母さん……」
「親は最終的に、子供の決断を見守ることしか出来ない生き物なの。そうではない人もいるのかもしれないけれど、貴方の親はそういう人だわ」
まるで他人事のように聞こえる呟き、けれどそれは、母さんの優しさであり厳しさでもあることをオレは知ってるから。たくさんのごめんなさいを贈るつもりが、出てきそうになる言葉はひとつしかなくて。
「ありがとう、母さん」
そう言ったオレは、謝罪よりも感謝の想いが込み上げてきて止まらなかった。
昨日までのオレなら、きっとこうして母さんと向き合って話すことなんてできなかっただろう。でも、現実から目を背けることで見えた大切な人への想いがオレを強くしてくれる。
好きな想いが溢れて、それを二人で育んでいけば。その形は姿を変えて、心に宿ることになる。オレと雪夜さんが宿したそんな想いを……人は、愛と呼ぶのだろう。
そして、また。
ここにある母さんからの想いも、それはきっと親としての愛情で。その形がひとつとは限らないことを知ったオレは、少しだけ自分に自信が持てるような気がした。
「年が明けて落ち着いたら、彼を家に連れて来なさい。その前に話しておかなきゃならないことは山のようにあるけれど、ひとまずは貴方の気が済むまで家出してていいわ」
「え、でも……じゃあ、お言葉に甘えて。冬休みになる残り数日、オレは雪夜さんのお家から学校に通う。クリスマスが終わったら帰ってくるから、その時は父さんにもオレからちゃんと話をする」
オレが、自分で決めたこと。
今日はこのことを伝えるために、家に来たんだから。
母さんの反応は正直オレには予想外だったし、まだまだ細かい部分を詰めていく必要はあるけれど。
「分かったわ、雪夜君によろしく言っておいて。星、この家にいなくても、やることはやりなさいね」
「分かってる……だから今日、オレは母さんに話に来たんだもん。雪夜さんにも伝えておくね、年明け時間取ってもらえるか聞いてみる」
ほんのすこしの勇気で、未来は変わる。
オレがそう実感できたのは、母さんと話し終えて家を出た時だった。
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