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第819話

「年明けか……調整して時間作るようにすっから、そんな不安そうな顔すんな」 自宅から雪夜さんのお家へとやってきて、ご飯やお風呂を済ませ同じベッドに入った夜のこと。就寝前のなんでもない時間に、オレは母さんから言われたことを雪夜さんに伝えていた。 「でも、雪夜さん忙しいじゃないですか。入社とか卒業とか、年が明けたら色んなことがあると思うし……両親もその辺のことは話せば分かってくれると思うから、無理はしてほしくないんです」 「無理するって程でもねぇーし、挨拶行くっつーのは大事なことだろ。んなことより、受け入れてもらえて本当に良かったな」 雪夜さんとの付き合いを母さんに認めてもらい、どこか晴れ晴れした気持ちで眠りに就ける今日。昨日散々愛し合ったから、お互い身体を求めることはしないけれど。 雪夜さんに腕枕してもらって、ふわりと髪を撫でてもらいながら微笑まれる。この時を幸せと呼ばずしてなんと呼ぶのか、オレには分からなくて、オレも自然と笑顔になれた。 「母さんは、分かってて黙認してくれてたんだと思います。母さんと父さんの幸せは奪ってしまうことになるけど、もう怖くはないです」 「お前は強いな、本当に男らしいヤツだと思う」 「雪夜さんが傍にいるから、雪夜さんがオレのことを愛してくれるから。だから、だからオレは逃げずに向き合えたんです。まだ父さんにはオレの口から話してないし、兄ちゃんのこともあるから頑張らなきゃいけないことはいっぱいありますけどね」 悩みや不安、苦しみや悲しみを共有してくれる雪夜さんと伴に歩むことで。オレは、多少なりとも成長しているのかもしれない。 考え方や物事の捉え方とかが大人な雪夜さんは、そんなオレよりずっと大人だから。オレには分からない苦労を知っているし、そういう大人な面は追い付きたいし、とても尊敬しているけれど。 オレの髪を撫でていた手が首筋を通り、着ている服の中に忍び込んできたのに気がついたオレは、その手の動きを止めるために雪夜さんの手に自分の指を絡めていく。 「雪夜さん、ステイです」 普段は大人に感じても、こういうことろは子供っぽいというか、欲に忠実というか……求められるのは単純に嬉しいけれど、オレの腰が死んでしまうから。 雪夜さんの目を見て躾をするようにオレが呟くと、雪夜さんの頭に見える架空の垂れた耳が余計にしゅんとしてしまって。 「分かってる……星くんに負担掛けたくねぇーし、今日はちゃんと我慢すっから。でも、少しだけでもいいから俺はお前に触れてぇーの」 絡めた指にキスを落とされ、雪夜さんに強く抱き締められたオレは、とてもよく懐いてくれる大型犬をあやすように雪夜さんの背中に両手を回す。 すっごくカッコよくて、とっても可愛くて。 大人で子供な雪夜さんと一緒に眠る夜は、静かで温かな優しい愛情に包まれていた。

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