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第821話
雪夜さんが隣にいる時間も、いない時間もオレは知っている。クリスマスがきてしまえば、もうすぐこの1年も終わりを迎え新たな年がやってくる。
長かった半年間。
雪夜さんと会えずにいたその時間で、オレが得たものはなんだろう。雪夜さんの傍にいる今、無駄に色んなことを考えてしまうオレは、ぼーっとしながら温かなココアを口に含んでいく。
「星くん、お前明日帰り早いだろ?」
「……あ、うん。明日で学校も終わりなので、お昼前には帰ってきますよ?」
ソファーに腰掛けているオレの横で、雪夜さんはソファーを背凭れにしてパソコンに向かう。オレと話しながらも眼鏡を掛け直し、すっかり仕事モードに入った雪夜さん。
離れてしまうのが寂しいからって、オレは雪夜さんの邪魔をしたくなくて。雪夜さんの返答を待ちつつ、伸ばしている膝を曲げ身体を縮めた。
「明日さ、終業式終わって学校出る前に連絡してくんねぇーか?今年はクリスマス前になっちまうけど、ランのとこで昼メシ食おうかなぁって思ってて……」
視線が合うことはなく、雪夜さんの後ろ姿を眺めていたオレに雪夜さんはそう言ってくれて。
「分かりました。じゃあ、雪夜さんに連絡入れたらいつもの場所で待っているようにしますね」
「そうしてくれると助かる……って、おー、すげぇーじゃん。コイツ今度ナショナル行くのかよ、夢に一歩近づいたな……おめでとさん」
オレと会話しながら、資料に目を通していく雪夜さんのテンションは独りでに上がっていく。教え子さん達の今後の進路が記載されているらしい書類は、雪夜さんにとっても嬉しい情報がたくさん書かれているのだろうと思った。
夢を追う子供たちへの指導者として、自分が出来る限りのことを全力で行う雪夜さんの姿を見ていると、オレも頑張らないとなって気持ちが湧いてくる。
一緒にいる時間はもちろん大切で、1分1秒でも長い方がいいと思ってしまうけれど。新しい夢に向かっている雪夜さんの支えになりたいとも思うオレは、やっぱり甘えるだけの関係じゃ嫌だなって感じて。
「雪夜さん、今日の夕飯はオレが作ります。何かリクエストありますか?」
こんなことしかできない自分を情けなく思いつつ、オレは雪夜さんに尋ねるとマグカップを持ったままキッチンへ向かった。
「お前が作る料理、どれも美味いからなんでもいい。あーでも、キャベツ早く使っちまわねぇーと腐るからなぁ……今日寒みぃーし、ロールキャベツ食いてぇー」
「了解です。んーと、ベーコンは明日の朝食で使いますよね?」
いつ開けても整理整頓されている冷蔵庫の中を覗き込み、オレは夕飯のメニューを考えていく。
「明日の朝、星くんがベーコンエッグ食いてぇーなら残しといて。朝メシ、フレンチトーストでよければ使っていい。コレ終わったら、俺も洗濯物畳んで風呂入れるわ」
仕事も家事も、それからオレへの優しさも。
どれをとっても、最高の旦那様としか言いようのない雪夜さん。オレはそんな雪夜さんの姿に惚れ惚れしつつ、新妻気分を味わっていた。
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