822 / 952

第822話

【雪夜side】 俺の要望に応えた夕飯を作ってくれて、一緒に風呂に入って。添い寝してやり、明日も学校がある星くんを寝かしつけた後。俺は暗い部屋の中でスマホの灯りを頼りに、ベッドから抜け出した。 同棲したら、きっと。 こんなふうに毎日が小さな幸せで包まれていくのだろうと、そう感じるここ数日。二人で築き上げる生活を、星が望む幸せを……確実なものにするために、俺が出来ることを考えながらクリスマスの予定を立てる。 星の両親に挨拶をしに行くのは、年が明けてからだが。その前に、もうひとつだけ星には告げなければならないことが残っていた。 しかし。 先延ばしにしてはいけないと分かっていても、星に言い出せずにいる俺はヘタレだ。この純粋な仔猫に、消えてしまいたいとまで思わせた家族の風景。 それは、一般的な愛情に溢れたものなのに。 俺が男だから、星が男だから、光が男だから、優が男だから……異性との付き合いとは違う、同性との付き合いをしている俺たちにとって。心苦しいものになってしまうことを、光は誰よりも感じていたのだろう。 星に話さなければならないこと。 俺と星のことではなく、俺は星くんに光と優の話をしなきゃならない。名前の由来を自分なりに受け入れ、前に進む道を自らの手で導き出した星は本当に強いヤツだと思う。 強い、けれども。 自分のことよりも人の傷に触れることの方がダメージを受ける星に、光と優が別れる理由を俺が告げることが正しい選択なのかが未だに分からずにいる。 俺の好きなようにやってみろと、星の母親はそう言って背中を押してくれたけれど。好きな人を自分の手で傷つけることを心苦しく思わないほど、俺は冷酷なヤツになれそうになくて。 星がしっかり寝入っていることを確認してから、俺は音を立てぬようにゆっくりとクローゼットを開けた。その中にあるキャリーバッグの中、まだひとつだけ渡していない土産を持った俺は、コレを手にした時のことを思い出して。 海外研修中、立ち寄ったフランスでの思い出。 星のことを想い、小さな教会で奇跡を願って手に取ったメダイユ……そこに、このメダイユに願いを添えるのは俺じゃないけれど。 クリスマスの日、星が願う奇跡は誰に向けられるのか。そんなことを考えつつ、光のことを話すのは明日にしようと決意して。 星くんにはまだ知られぬよう、元の位置にそのメダイユを戻した俺は、独りソファーに腰掛け煙草を咥える。 明日は星を学校へ送り届け、その後の空いている時間で星の母親へ連絡を入れて。とりあえず、俺の考えを受け入れてもらってから行動に移そうと。 1日の流れをイメージしつつ、さまざななことを考えていた俺が寝付いたのは、深夜2時を過ぎた頃だった。

ともだちにシェアしよう!