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第823話

星を学校へ送り届け、車内で星の母親に連絡を入れて。好きにすればいいというスタンスを崩さない母親から、あと数日の間は星のことをよろしく頼むと俺は依頼された。 前回の電話、星が家出した日の夜。 その時の父親について触れることはなかったものの、年明けの挨拶の日程はまた後日連絡すると。穏やかな声色を変えなかった星の母親は、俺を本当に家族として受け入れる気でいるのだろうと思うことが出来て。 一番ネックな問題はまだ解決されていないままだが、少しずつ動き始めた俺と星との付き合いは、今のところ悪い方へとは向いていないと思えた。 だが、しかしだ。 俺や星の母親の動きを、光は何処まで勘づいているのか分からない。けれど、光の問題が解決されない限り、星くんは俺を選ぶことはしないと思うから。 色んな意味で、星に俺だけ見てもらえるように。そんな覚悟を持って、車内で咥えた煙草に火を点け、俺は星が終業式を終えて此処に戻ってくるのを待っていた。 学校裏の小さな公園。 星がまだ一年だった時の誕生日、光の企みによって成功したサプライズ。俺との時間が欲しいと願う星くんのため、初めて此処まで迎えに来た日のことを思い出し、それが酷く懐かしく感じた。 年が明けて数ヶ月経てば、俺も星も学生ではなくなる。そう考えると、愛らしい星くんの制服姿を拝めるのは残すところあと僅かなのかと思ってみたりして。 俺って、マジで現役高校生と付き合ってんだって。暖かい車内で、ボーッとそんなことを考えていた俺は、駆け足で俺の元まで走り寄ってくる星くんを見つけた。 「……かーわいー」 思わず零れた言葉が、今の星に届くことはない。あと50メートルないくらいの距離を必死で縮めていく仔猫さんが、愛らしくて仕方なくなってしまう。 緩んでいく口元を隠すことが出来る煙草で、俺はニヤけた表情をなんとか誤魔化して。助手席側に星の姿が映り込むのを確認してから、ドアロックを解除した。 「はぁっ、あの、お待たせっ……しましたぁ」 「ん、お疲れさん。走ってこなくてもよかったのに、そんなに俺が恋しかった?」 寝る時も、朝起きた時も。 常に一緒にいた俺たちが離れていた時間は、3時間もない程度だったが。それでも、俺を待たせちゃ悪いとか、そういった理由を並べてわざわざ走って来てくれた星くんに自惚れを感じてしまうから。 少しだけ息を切らした星の頭を撫でてやり、俺は星くんの蒸気した頬へと軽くキスを落した。 「あ、もぅ……確かに雪夜さんが恋しくて、走って来ちゃいましたけど。こんなところでイチャついてたら、誰かに見られちゃいます」 そう言って、赤くなっていく表情はいつまで経っても変わることがなくて。可愛い可愛い星くんを連れ、俺はランの店へと車を走らせた。

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