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第825話

別れる。 覚悟はしていたものの、本人の口から改めて言われるとかなりキツいものがあるけれど。今の俺に、ショックを感じている暇などない。 分かりきっていた反応をされているだけだから、と……心の中で呟きつつも、俺は冷静さを見失わぬように口を開いていく。 「星、別れんのは光のためか?」 小さな背中を更に小さく丸め、俺に背を向け泣いている星に声を掛けた。 鼻を啜る音と、コクリと動く星の頭。 聞かなくても分かっている理由ではあるが、その理由で別れを選択されても俺は星のように頷くことは出来なくて。お互いに、別れずに済む方法を一緒に探してほしいと……相変わらず情けない言葉を星に告げる前に、俺は煙草に火を点けていく。 「……オレ、雪夜さんが大好きです。でも……オレと雪夜さんが一緒にいることで、兄ちゃんが優さんと別れなきゃいけないならっ……オレは、雪夜さんと一緒にいることはできません」 「星……」 「オレね、優さんと一緒にいる時の兄ちゃんが好きなんです。オレの兄ちゃんでも、王子様でもなくて、兄ちゃんが兄ちゃんとして笑える場所は、優さんの傍しかないと思うんです。だからっ……」 「だからお前は、俺と別れんのか?それじゃ、光も幸せになんてなれねぇーとは思わねぇーの?兄弟でお互いに、幸せ譲り合ってどうすんだ」 「だってッ!!」 感情のままに声を上げ、星は振り返って俺を見る。星の瞳から零れ落ちる涙はこんな時でさえとてもキレイで、思わず手を伸ばしてしまいそうになるけれど。 触れてほしくないと言った星に、混乱している今の星に、俺が触れるのはまずい気がして。俺は煙草の煙を吸い込み一呼吸して、それから持っていた煙草を灰皿に引っ掛け、星を落ち着かせるために声を出す。 「お前に話さなくても良かった話を、俺はお前にした。隠しておけば良かった話かもしんねぇーけど、俺は星と一緒にいてぇーから光の話をした。この意味、分かるか?」 怒るわけでなく、出来るなら諭すように響いてほしいと願いつつ、俺は星に問い掛ける。ふるふると首を横に振り、俯いてしまう星。 星のことをいくら思っても、これ以上触れずにいることなんて耐えられず、俺は星の頭を撫でてしまうけれど。その手を振り払うことはない星の態度に安堵し、俺は言葉を紡いでいった。 「星なら、お前なら光の気持ちを動かせる。俺や優に出来ねぇーことでも、お前なら出来ると思うから。光と優、もちろん俺たちも含めて、別れずにいられる未来を俺と一緒に作ってほしい」 「雪夜、さん……」 「だから、別れるなんて言うんじゃねぇーよ……お前は、何があっても俺の傍から離れんな」 遠慮がちに俺へと伸びてくる星の両手を掴み、そのカラダを抱き締めて。縋るように背中へ回された手の温かさを感じ、やはりどんなことがあっても、星を離すことなんて出来ないと俺は確信した。

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