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第827話

所変わって、ランの店から家へと戻ってきた俺たち。今日から冬休みに入った星と二人で夕飯の支度をし、普段通りに食事と風呂を済ませて。 今日も愛しい人が傍にいることに安堵しつつ、同じベッドの上で横になった俺と星は光のことについて話している最中で。 「兄ちゃん……どうしたら、優さんを選んでくれるんでしょうか?」 ブランケットからひょっこり顔を覗かせ、星は大きな瞳をぱちぱちさせながら問い掛けてくる。 「一応、考えはあんだけど……俺がお前ん家に挨拶行く日にさ、どうにかして光を家に閉じ込めておいてほしいんだよ。それが出来れば、あとは俺の方でどうにかするから」 「分かりました。オレにできることがあるなら、頑張ってみます。優さんも兄ちゃんも、今までずっと苦しい思いをしてきたんですよね……オレ、そんなことちっとも知らないで兄ちゃんの前で笑ってて……」 「光の前で笑ってろっつったのは俺だ、お前が気にすることはねぇーから。それより、気持ちの整理はちゃんとついたか?」 俺が帰国してからというもの、俺と星を取り巻く環境は急激に変わった。環境というよりも、俺たちの付き合いに関わる人間たちの動きが変わったといった方が正しいのかもしれないが。 俺でも浮いたり沈んだりする日々を過ごしているのだから、星にとっては俺より更に辛い出来事の繰り返しではないかと思った俺は、ミノムシ状態の星を抱き締め尋ねるけれど。 「整理というか、なんというか……雪夜さんと一緒にいたいって気持ちに、オレは自信を持たなきゃって思ってます。母さんにも言われたんですけどね、この気持ちを大事にしようって今は素直に思います」 傷つきやすく、いつも壊れたように泣き喚く星くん。しかし、その内面は本当に強くて。数時間前に別れると言われたことが嘘のような星の表情に、俺はなんとも言えない感情を覚えていく。 「さっき別れるっつったの、誰だよ?」 嫉妬でもない、憎悪でもない不思議な気持ち。 星からの言葉はとても嬉しいはずなのに、今更やってきたショックと向き合うはめになっている俺は星から離れ背を向ける。 「あ……えっと、ごめんなさいっ!あの時は、その……兄ちゃんのことしか考えてなかったというか、全部がオレのせいだって思っちゃって……だから、あのっ」 「分かってっけど、お前が愛してんのは俺だけだってことも、光と優を思うお前の気持ちも分かってるつもりだけど」 「じゃあ、許してください……雪夜さんと別れたいって、オレも本心から思ってたわけじゃなっ!?」 俺の背中に額をくっつけ、必死に謝罪する星くんは可愛い。そして、そんな星をベッドへと押さえ付けた俺は、きっと可愛くない。 「お前さ……俺と光、どっちが大事なワケ?」 「……雪夜、さん?」 分かりきった質問をする俺を見上げ、首を傾げた星は戸惑った表情を隠さなくて。 「教えて、星」 俺も星と同様。 ニヤけていく口元を隠せないまま、イタズラ心に火を点けていく。

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