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第833話
「ここのツリー、いっぱいベルがついてますね。このベル、何か書いてありますよ?」
雪夜さんに手を引かれて、オレはツリーの元までやってきた。そして、そのツリーに飾られているオーナメントを見たオレは、ベルに様々な文字が書かれていることを発見して。
「ベルに願いごとを書いてこのツリーに吊るしておくと、その願いが叶うらしい。七夕的な感覚に近いんじゃねぇーの、笹もツリーもそんな変わんねぇーし」
オレの隣にでそう言ってツリーを見上げる雪夜さんを見て、オレは思わず笑ってしまう。笹とモミの木では違いがあり過ぎるのに、雪夜さんから見るとそれらは似たような物に変わるらしい。
「……星くん、なにがそんなにおかしいんだよ?」
オレとは違い、イベント事に興味のない雪夜さん。それでもオレに合わせて、こうして素敵な時間をくれる雪夜さんが愛おしい。けれど、肩を震わせ笑うオレに、雪夜さんは不思議そうな顔をして尋ねてきたから。
「雪夜さんって、本当に神頼みとかしないタイプなんだなぁと思って。オレとは違う、そんなところも雪夜さんらしくて大好きだなって思ったら幸せで……つい」
だらしなく頬を緩めて笑うオレの顔に、ひんやりと冷たい雪夜さんの両手が添えられる。
そして、次の瞬間。
「っ!?」
オレのおでこに柔らかく触れたのは、雪夜さんの唇だった。こんな場所で堂々と、恥じらいもなくスマートにキスをされて。
「お前、ホント可愛い」
雪夜さんの淡い色の瞳に、真っ赤な顔をしたオレが映る。でも、幸せいっぱいの笑顔で微笑まれてしまったら、オレは周りに人がいることなんて忘れてしまうから。
「雪夜さん……」
暗い夜空を照らす様々な光に囲まれ、オレは雪夜さんの腕の中へと自ら包まれにいく。
「星、愛してる」
今日だけは、小さな夢を運んでくれる暖かな日だけは。神様だって、きっとオレ達の幸せを願ってくれると信じて。見つめ合ったオレと雪夜さんは、周りの目を気にすることなく二人並んで教会の中へと進んでいった。
趣のある礼拝堂は、とても幻想的な空間で。
ミサに初めて訪れたオレでも、心を洗われるような澄み切った気持ちになっていくのが不思議だった。
ハンドベルの演奏を聴いたり、皆んなの幸せを牧師様が祈ったり。知らなかった世界をオレに見せてくれた雪夜さんは、やっとオレと同じ景色が見れたって笑ってくれたんだ。
離れていた半年間、雪夜さんはずっとオレのことを考えていてくれて。二人でこうしてクリスマスを過ごせる場所を探してくれていたことを思うと、オレは涙が出るほど嬉しかったのに。
教会から次の目的地へ向かう車内で、オレは雪夜さんから泣くのはまだ早いって言われてしまった。
短いようで長い夜は、始まったばかりだからって。そう呟かれ、なぜ今日はオレも正装しなければいけなかったのかを教えてくれた雪夜さんは、そんな緊張すんなってオレの頭を撫でるだけだった。
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