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第835話
これほどまでに、調理の学校に通っていて良かったと思ったことはない。和洋中、それぞれ異なるテーブルマナーの指導を受けに、校外での授業が年に3回カリキュラムに入っているから。
学校で必ず受けるテーブルマナーが頭に入っていたオレは、運ばれてくるコース料理の食し方に困惑することなく食事を楽しむことができて。
「さすが星くんって感じだな、料理見たら緊張感もどっかいっただろ。今はすげぇー満足感に溢れた顔してるし、デザートは俺のも奪ってったし」
「デザートは、雪夜さんが食べていいよって言ったんじゃないですか。前菜も、メインも、もちろんデザートも、どれも本当に美味しくて……盛り付けも細部にまでこだわりがあって、とても勉強になりました」
「お前は、本当にいい子だよな。初めての環境で、そんだけ楽しめたなら充分だ」
最初はどうなることかと思ったけれど、クリスマスディナーに大満足なオレを見て、雪夜さんも笑ってくれるのが嬉しい。
だからオレは、お礼とばかりに脱いでいたコートの中から雪夜さんへのプレゼントを取り出した。
「メリークリスマスです、雪夜さん」
真っ直ぐ腕を伸ばして、雪夜さんに差し出したプレゼント。喜んでくれるか分からないけれど、オレなりに想いを込めたプレゼントは、しっかりと雪夜さんの手の中に収まっていく。
「ありがとう、星くん。んじゃ、こっちは俺からな」
すっかり恒例の儀式になったプレゼント交換は、息を合わせて二人で同時に中身の確認をするのが決まりだけれど。
静かな店内では、せーのって声を掛けることができなくて。オレと雪夜さんはアイコンタクトでお互いの呼吸を合わせ、同じタイミングでラッピングの包装に手を掛けた。
「……すっごく可愛いっ!」
雪夜さんからの贈り物は、小さなオーブがあしらわれたユニセックスなデザインのキーケース。そして、オレからのプレゼントを見た雪夜さんは、とても嬉しそうに頬を緩めて。
「俺が好きなデザイン、よく分かってんじゃん」
喜んでくれたのがひと目でわかる雪夜さんの笑顔が嬉しくて、更に嬉しい言葉を添えてもらったオレは、蕩けそうな時間に酔いしれてしまう。
「雪夜さんに気に入ってもらえて良かったです。でも、どうしてキーケースなんですか?」
「俺が今使ってんのは古くなってきたし、星くんがこれから車持つこと考えたらあった方がいいかなと思って。特に深い意味はねぇーけど、そのキーケースの一番端は空けておいてくんねぇーか?」
「……えっと、分かりました」
こくりと頷いたオレと、優しく笑ってくれる雪夜さん。今年も暖かなクリスマスを過ごすことができたなぁって、オレが幸せを感じた時だった。
雪夜さんの淡い色の瞳に、オレの姿が映し出されて。
「星、一緒に暮らそう」
ただ、ひと言。
真剣に告げられた言葉は、今日一番のサプライズだった。
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