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第836話

「俺が今いるマンションは、来年の3月で契約が切れるんだよ。今すぐにってワケにはいかねぇーから、お互いの卒業が目処になるけど」 「そうですよね……元々、オレはクリスマス過ぎたらお家に帰るって約束ですし。あ、でも……一緒に暮らすってなったら、初期費用とか色々と掛かりますよね?」 現実的なことは、考えなきゃいけないから。 オレが家を出るってなると、その分雪夜さんの負担になってしまうんじゃないかと思ったオレは、嬉しさを隠して雪夜さんに問うけれど。 「俺が何のために、お前と会う時間削ってまでバイトしてきたと思ってんだ。そんなに多い額じゃねぇーけど、貯蓄はあっから心配すんな」 「雪夜さんって、本当に大学生ですか?」 「それは、お前が一番よく知ってることだと思うんだけど。お前の実家とランの店からそう遠くない場所で、一緒に……って、星?」 「うれ、しぃ……です」 嬉しさを隠しきれずに、コクコクと頷いて。 頬に流れ落ちた涙を拭いたオレは、心配そうに声を掛けてくれた雪夜さんにそう言った。 いつから、雪夜さんはオレとの未来を考えてくれていたんだろう。今日、その未来を現実ものにするために雪夜さんはオレに告白してくれたけれど。 オレが見えてない先のことまで、雪夜さんはしっかりと見据えていて。その思いに気がついたオレは、プレゼントに視線を移していく。 「あ……だからキーケースなんだ」 クリスマスプレゼントをキーケースにした雪夜さんの企みにようやく納得し、オレはこの場で言われたことをもう一度自分の中で確認して。 そして、気づいてしまったんだ。 「雪夜さん、コレってまさか……」 その言葉の続きは照れくさくて言えなかったけれど、オレが考えていることを肯定する雪夜さんの頷きが返ってきたから。 クリスマスイヴという特別な日、オレは大好きな人からプロポーズ的なことを言われたんだと実感して。 「えへへ」 嬉し過ぎておかしな笑いが止まらないオレは、目尻に涙を溜めながら頬を染める。 「タイミング的に、今日しか言う時なかったからな。お前の両親に挨拶行く前に、こういったことは済ませておくべきだから」 「雪夜さん、オレどうしましょう?女の子じゃないのに、女の子みたいにドキドキして嬉しくて……お嫁にいく感覚って、こんな感じなんでしょうか?」 「俺はお前をもらう側だから分かんねぇーけど、相変わらず星くんは星くんだな」 嬉しさと幸せを通り過ぎ、意味の分からないことをオレが言っても。雪夜さんは優しく微笑んでくれるし、こんなにも素敵な夜をくれる。 両親のことや、兄ちゃんのこと。 たくさんのことに悩んで、まだそれはほんの少ししか解決していないけれど。雪夜さんの気持ちと一緒に、オレが向かうべき道は見えてきたから。 このキーケースに、お互いが帰ることのできる家の鍵が増えることになると思うと、オレは今から楽しみで楽しみで仕方ない。 二人で、一緒に。 それは結婚という形が取れないオレ達にとって、永遠を誓うことと変わらないんじゃないかと。そんなふうに思った、忘れられない聖夜だった。

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