838 / 952
第838話
「……ただいま」
家まで送ってくれた雪夜さんとは公園で別れて、オレは裏の勝手口から家の中へと足を進めた。
「星、おかえりなさい。丁度いいところに帰ってきてくれたわ、夕飯の支度手伝って」
キッチンで手を動かしつつ、そう言ったのは母さん。晩ご飯前に帰宅したオレは、母さんのアシスタントとしての役目が出来たから。
「あ、分かった」
勉強道具や学校の用品が入ったキャリーバッグをリビングに放置し、オレはシンクで手を洗うと母さんの横に立つ。
「そこのじゃがいもに下味つけて、マヨネーズは冷蔵庫の中にあるわ」
「ポテトサラダだね、父さんのリクエスト?」
「そうよ、唐揚げとポテトサラダが食べたいんですって。星も雪夜君と一緒に暮らしたら、食事作るの大変になるかもしれないわよ?」
コンロの前で粉のついた鶏肉を揚げている母さんは、クスッと笑ってオレを見る。それがなんとも気恥しくて、オレは冷蔵庫からマヨネーズを取り出しつつこう言った。
「雪夜さんも料理上手だから、大丈夫だと思う。家事も分担してくれるし、オレの方がやること少ないくらいだから」
「雪夜君、いい旦那さんになりそうよね。まぁ、父さん以上にいい人なんていないけど……彼のこと、貴方の口からちゃんと父さんに話してあげさない。父さん、待ってるわよ」
「うん、オレもそのつもりで帰ってきたから。夜に時間作って、父さんにも雪夜さんのこと話すよ」
母さんと二人、並んでキッチンに立って。
こんなふうに雪夜さんの話ができる日がくるなんて、オレは思っていなかったけれど。
自分のことを隠さずに受け入れてもらえることが、こんなにも嬉しくて照れくさいことだったとは思っていなかった。
「……あ、マヨネーズ入れすぎたかも」
「星が作ったって言えば、味が濃くても薄くても喜んで食べるわ。父さんも光も、ね?」
失っても構わないと、ついこのあいだまでそう思っていた家族の暖かさ。それは、どんな時でも小さな心の支えになるものなんだとオレは気づくことができたから。
「母さん、ありがとう……オレを信じてくれて、雪夜さんとの関係も認めてくれて。本当に、感謝します」
目を見て言うのは恥ずかしくて、オレは母さんが揚げ終わった鶏肉をお皿に移しているあいだに声を掛けたけれど。
「あら、お嫁に行くのは早いわよ?というより、雪夜君がうちの子になってくれればいいのにって母さんは思うのよね」
「雪夜さんが、オレのお嫁さんになるの?」
恥や照れを忘れるくらいに、母さんの言葉に驚いたオレは、目をぱちくりさせながら母さんを見る。
「戸籍上の話よ、同性だと色々とあるでしょうから。まだ先の話にはなるけれど、きっと雪夜君はそこまで見据えて星との同棲を考えているはずだわ」
「え、でも……オレ、そんなこと雪夜さんから何も言われてないんだけど」
「ふふ、当たり前でしょう。今の話は、全部私の勘だもの」
ともだちにシェアしよう!

