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第841話

「永遠に、雪夜さんと一緒にいられるとは思ってない。この先何が起こるかは分からないし、父さんが言ってることは正しいと思う」 一緒にいたいって気持ちだけじゃ、人の心は動かせない。雪夜さんと出逢って、オレはたくさんのことを学んで、色んなことに気付かされた。 人を説得するには、それなりの理由がいる。 雪夜さんがオレを優先しつつもやるべきことをしっかりと果たすのも、それは誰かに認めてもらうため。学校の先生や、仕事先の人……人は、いつだって知らず知らずのうちに、誰かから評価されて過ごしている。 今のオレだって、オレの気持ちが真剣なものなのか父さんに確かめられているんだと思う。 不確かな未来のことは、誰も予知できない。 オレがいくら雪夜さんと離れたくないと言ったところで、その気持ちは父さんには届かないんじゃないかと思った。 でも、オレは兄ちゃんから教えてもらったことがある。信用されて、信頼される関係性は、未来だけを見て言えるものじゃないんだと。兄ちゃんや優さんだって、様々な過去を乗り越えてその関係を築き上げてきたこと。 あの時はなんとなくしか分からなかったけれど、今ならその意味が分かるから。 「……オレは、父さんと母さんの姿をずっと見てきて思ったんだ。どんなことがあっても、夫婦二人で、家族で、乗り越えていく親の姿をオレは見てきたから。だから、オレの気持ちは変わらない」 「星……」 「父さんと母さんがどんな気持ちで、オレに星って名前を授けてくれたのかもオレは知ってるんだ。父さんと母さんが描いた幸せとは違うかもしれない、同性同士の付き合いだから迷惑を掛けることもあると思う」 過去だって、未来だって。 オレは自分なりに、考えていることを知ってほしい。まだまだ子供だけど、父さんや母さんからしたら、オレはずっと二人の子供のままだけど。 二人の子供だからこそ、オレはオレの気持ちをしっかりと伝えなきゃ。 「父さん、母さん……親不孝な息子だけど、それでもやっぱりオレは、雪夜さんと一緒にいたいです」 真剣で、正直なオレの気持ち。 どれだけ伝わるのかは分からないけれど、これがオレの伝えられる精一杯の言葉。 「守(まもる)さん……貴方は息子にここまで言われて、反対できるような人じゃないでしょう?」 オレの気持ちを後押しするように、母さんはそう言って父さんの肩に手を置いた。 「幸咲、誰も俺が反対しているとは言っていないだろう。星、母さんから話は聞いているかもしれないが、年が明けたら、その……雪夜君とやらを家に連れてきなさい」 「父さん、ありがとう」 真剣に、真っ直ぐに。 オレなりの思いを声に乗せ、両親へと届けた言葉。父さんの横で微笑む母さんと、ようやくオレの前で笑ってくれた父さん。そんな二人にオレは深々と頭を下げると、心からの感謝を伝えたんだ。

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