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第842話

「あーっ、外さっむい!って……あれ、もしかして俺お邪魔しちゃった?」 しんみりと穏やかな空気の中、そこに明るさを灯してくれたのは兄ちゃんだった。外出先から帰宅した兄ちゃんは、リビングのヒーターの前を陣取ってオレや両親の顔を見る。 「おかえりなさい、邪魔なわけないでしょう。外冷えてたのね、光もコーヒー飲む?」 「もらうー。俺はただいまだけど、せいはおかえりだね。年明け前に帰ってきてくれて、本当に良かった……俺も寂しかったけど、一番寂しがってたのは父さっ」 「光、余計なことは言わんでよろしい」 「ハイハイ、分かりましたよーっと。父さんって本当に素直じゃないよねぇ、母さん?」 「本当ね」 照れくさそうにそっぽを向く父さんと、そんな父さんを見て笑う兄ちゃんと母さん。和やかな家族の団欒につられて、オレも自然と笑顔になって。 なんだかとても懐かしいような、でもいつもすぐ側にあったような独特の暖かさにオレたちは包まれていく。 この世の終わりのように感じた、数日前。 自分に託された両親からの想いを知って、兄ちゃんの本心を知って、オレは雪夜さんと別れることも一瞬だったけれど考えてしまった。 でも、でも終わりなんてなかったんだ。 人の考え方や行動次第で、未来はいくらでも変えることができる。予知できない不確かなものだからこそ、明るい未来を描くことだってできる。 一人じゃできないことでも、誰かと一緒なら、好きな人と伴になら。どんな困難が待ち受けていたとしても、前を向いて歩いていこうと思える。 苦しくてどうしようもない時は、泣いたっていいんだ。現実から目を背けたくなったら、時には逃げ出したっていい。悩んで傷ついて、そうしてオレは向き合える勇気を得ることができたから。 だから、兄ちゃんも一緒に。 過去に囚われず、前を向いてほしくて。 「兄ちゃん……来年1月の成人の日、雪夜さんがうちに来ることになるんだけど……兄ちゃんもオレと一緒に、家にいてくれないかな?」 オレができること、オレにしかできないこと。 兄ちゃんが幸せになるために、オレと雪夜さんのことを見守ってほしいって。そう兄ちゃんに伝えたオレは、兄ちゃんからの返事を待つけれど。 「せいっ!良かった、本当に良かったッ……これで何にも隠すことなく、ユキと一緒にいられるねっ!もちろん俺も、皆んなと一緒にユキちゃんお迎えするから大丈夫!!」 「兄ちゃんっ、ぐるしぃ……」 勢いよくオレに抱き着いてきた兄ちゃんは、心底嬉しそうにそう言ってくれた。爽やかで甘い香水の香りは、いつもの兄ちゃんの匂い。 「本当に、うちの子達は仲が良いんだから」 「俺と幸咲も、だろう?」 「ふふ、そうね」 新しい年を迎えたら、また新しい風が吹き抜けていくのかもしれないけれど。年明け前に家族の絆を確認できたオレは、支えてくれた雪夜さんにありがとうって心の中で呟いた。

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