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第843話
【雪夜side】
クリスマスが終わり、星くんが家に帰って。
広く感じる部屋で独り寂しさを紛らわす生活を送っていたら、知らぬ間に年が明けていた。
新たな1年が始まったというのに、俺の目は虚ろだ。つい数時間前に康介から届いたLINEで年明けを知らされ、初詣の誘いを受けたが……俺は初詣に行く気力もなく、パソコンの画面を見つめている。
「あー、どうすっかなぁ」
正月気分というのは、どんなものなんだろう。
今飲んでいるコーヒーが酒に変わり、疲労回復のために口に放り込むチョコレートがおせちに変わるんだろうか。
この歳になるとお年玉を期待することもなくなり、幼少期にどれだけ恵まれた待遇を受けていたのかを知る。もらう側からあげる側になるのも、案外そう遠くないのかもしれないと。
そんなことを思いつつ、俺は現実と向き合っていく。年末は星くん優先で過ごしていたが、星のことばかり考えているわけにもいかない。
年末ギリギリで竜崎さんから頼まれた仕事は、年明けすぐに提出しなければならない書類の作成で。この元日を仕事に費やすことになった俺は、大晦日から家に引きこもっていた。
仕事を早く片付けたとしても、明日は実家に帰らなければならないし、帰ったら帰ったでうるさいヤツらが待っているし……正月なんてなくなってしまえと、俺は心の中で呟いて。
作成した書類のチェックをしながら煙草を咥え、ようやく落ち着けると思った頃。部屋の中に入ってきたのは、昇り始めた陽光だった。
「……初日の出、か」
寒さに震えながらも四人で日の出を待ったあの日が酷く懐かしく感じ、自然と笑みが洩れる。新年の始まりと共に過去を振り返り、自分にとって大切な存在を改めて実感して。
人に興味がなかった自分も、こんな気持ちになれるのかと。過ぎた日々から得た沢山の思いを胸に、今年は星くんと描いた幸せを手に出来るようにと願う。
星の両親へ挨拶する日にちも決まり、前へと進むしかない俺だが。それなりに不安は残ったままだし、こうして独り煙草を吸う時間はやはり必要で。
「1週間後じゃねぇーかよ」
気持ちの整理に、頭の整理、さまざまなことを行いつつ、ふと視線を向けたカレンダー。それを見て気づいたことが、思わず口から洩れていた。
あと、1週間。
1週間後のその日に、恐らく俺たちの未来が決まる。俺と星だけじゃない、光と優の未来も、一緒に。
大きな賭けをしたもんだと、自分でも笑えるくらいに光と優のことを考えている俺は、その先にある星の幸せを願うことしかできない。
やれるだけのことは、したはずだ。
俺が思うように、星が望むように、星の母親の力を借りながらも、ここまで辿り着くことのできた今。
星に託した想いが、あの悪魔二人に届くように……俺は、煌々と輝く日の出に微笑んで見せた。
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