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第844話
日の出を拝み爆睡した昨日、そして今日の朝から支度をして俺が向かった先は実家だ。
数年前。
高校を卒業し、実家を出た時は想像も出来なかったこと。嫌っていた兄妹と顔を合わせるだけで憂鬱だった俺が、今じゃそんなことを考えずに実家の敷居を跨いでいく。
ならば兄妹のことが好きになったのかと訊かれれば、俺は必ずそれを否定してしまうが。そもそも家族に対して好意的に思えることの方が少ないのではないかと、独り哲学の世界に浸りながら俺は玄関のドアを開けた。
誰にも出迎えられないのは、独り暮らしだと寂しく感じるものなのに。この実家の場合に限っては、出迎えがないことの方がありがたく感じてしまう。
玄関で靴を脱ぎ、リビングへと足を進めれば。
うるさい妹がいないことに安堵し、面倒な兄貴二人が寝ていることにまた安堵した。
モデルの撮影でハワイへ出向いて移行、そのまま海外で羽を伸ばしているままの両親と合流したらしい華。飛鳥の話では、華は今後拠点を海外へ移し、両親とともに生活する予定らしい。
と、なるとだ。
実家の住人は、兄貴の二人。
テーブルの上に散らばる空き缶と空き瓶の山、それは兄貴二人が朝方まで飲み明かしていたことを俺に告げてくれる。年が明けても変わらない風景を目の当たりにし、やっぱ俺の兄貴たちはクズだと思った。
ソファーで転がっているのは飛鳥で、ラグの上に転がっているのが遊馬。二人とも狸寝入りしている様子はなく、爆睡してやがる。
「……これだからお前らは、結婚出来ねぇーんだよ」
……端からするつもりなんてねぇよ、クソガキ。
なんて。
二人が起きていようものなら、絶対そう言われると思いつつ、寝ている時だからこそ言える嫌味を呟いて。酒と煙草の匂いで溢れた部屋の空気を変えるために、俺は遮光カーテンを開け、ついでに窓も全開にした。
「さむっ」
暖房で温まっている室内へ、一気に流れ込んできた風に俺は身震いする。年々、歳を重ねるごとに寒さに弱くなっていく身体をどうにかしたいが、とりあえず今は寒さよりも悪臭をどうにかしたい。
その思いだけで開けた窓をすぐ締める選択を間逃れた俺は、転がっている兄貴二人の表情が変わっていくのを楽しんで見ていた。
温まっている身体にひんやりと冷たい氷を落とすかのように、寝ている二人にとって新しい空気は殺傷能力が高いのだろう。
見る見るうちに眉間に皺が寄り、無意識に身体を丸めていく鳥と馬の姿。もしもここに華がいたらなら、すかさず写真を撮って爆笑するんだろうと。
低レベルな笑いで満足出来る兄妹たちの存在も悪いもんじゃない、なんて……そこまで考えてコイツらもそれなりに俺にとって大切な存在なんだろうと思えた。
だからかも、しれない。
言われる前に動いてやろうとキッチンへ移動した俺は、どうせ寝起き一発目にメシを作れと命令してくる兄貴二人のために、目覚めのコーヒーと軽食の用意に取りかかった。
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