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第845話

「……やぁーちゃ、コーヒーぃ」 「雪、メシ」 部屋の空気が入れ替わり、俺がキッチンで軽食を作り終えた頃。ノロノロと動き出した兄貴二人は、俺の予想通りの言葉を寄こしてきた。 酒焼けで掠れた声の飛鳥と、寝起きの低音ボイスな遊馬。そんな二人の姿に苦笑いしつつ、俺はこう答えた。 「そう言われると思って、コーヒーもメシの用意してあんだけど……とりあえず兄貴らは、煙草吸うだろ?俺も一服してぇーから、食事は吸い終わってからな」 「……雪、お前すげぇ」 「さすがやーちゃん、よく分かってんじゃねぇか」 「それより、まず先におめでとうじゃねぇーのかよ。年明けてんだからさ、新年の挨拶くらいしろや」 この兄貴たちに挨拶されたところで、だからどうしたって感覚にしかならないのだが。常識も何もないコイツらといるとつい、余計なことを言ってしまう。 それが心地よくもあり、悪くもあるのが兄弟なんだろう。それぞれが好みの煙草を吸い、ボーッとした時間を過ごして。頭が冴えてきたらしい兄貴二人は、好き勝手に着替えやらなんやらを済ませていく。 その間に俺はグチャグチャなテーブルの上を片付け、そしてようやくコーヒーと朝食が兄貴二人の前に並んだ。 「その辺の喫茶店行くより、雪が作ったメシの方が美味いってどうなんだ……お前マジで料理上手いよな、そこだけは褒めてやる」 「まーちゃんがんなこと言うなんて珍しいけど、やーちゃんの飼い猫の方がコイツより料理上手だぞ。いいよなぁ、可愛くて愛情いっぱいの子猫ちゃんって」 「思ってねぇーだろ、羨ましがってる感じしねぇーんだよ。確かにアイツは料理上手だし、すげぇー可愛いけど」 思い思いに感じたことを話し、適当に食事をする。飛鳥は星くんのことを知っているからか、口元をニヤつかせながら俺を揶揄い、遊馬はそんなことはどうでもいいのか、大人しく俺が作ったピザトーストを頬張っていた。 ただ顔を合わせて話すだけの時間を正月に設けて、何をするわけでもなく強いて言うなら近状報告をする俺と兄貴たち。 「まーちゃんは、結婚する気ねぇの?」 「鳥、お前だけには言われたくねぇ。俺より雪だろ、子猫とやらと籍入れたりすんのか?」 「あー、籍入れるっつーか……とりあえず、卒業したら同棲しようかって話にはなってる」 二杯目のコーヒーを飲みつつ、何本目か分からぬ煙草を吸いながら、俺は遊馬に対してそう言うけれど。 「相手が男だと、その辺面倒だよなぁ……まぁ、上手くやれよ。俺は関係ねぇからなんでもいいし、うちの親はほっときゃいいし、お前が思うように生きてみりゃいいと思うし」 「まーちゃん、カッコイイ」 「確かにカッコイイってか、ありがてぇーけど……馬、なんで俺の仔猫が男だって知ってんだよ?」 サラっと言われた遊馬の言葉は、相槌程度で流せるようなものじゃなかった。

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