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第849話

世間が正月ムードの中。 親戚への挨拶回りを終え、俺の元へとやってきた星くんと一緒に、全国高校サッカー選手権、準決勝の模様を部屋のテレビで眺めていた俺は、あることに気がついた。 「……決勝、観れねぇーじゃん」 星の両親へ挨拶しに行く日程と同じ日、その日に決勝戦が行われることを忘れていた俺は、決勝戦の試合観戦を断念することに決めた。 数年前から、成人の日に決勝戦が行われるようになった高校サッカーは、冬の国立とも呼ばれている。追っていた夢の舞台、そこに立つことは出来ずとも。新たな夢として、コーチの職につくことになる俺にとっては、この高校サッカーを観ることも大事だが。 「母さんに言って、時間変えてもらいましょうか?家へ行くの夕方以降なら、決勝戦観れますよね?」 「いや、んなことしなくていい。お前の気持ちは嬉しいけど、ちゃんと指定の時間に行くようにする」 サッカーよりも大事なことが、今の俺にはあるから。ある意味、俺たちにしてみれば決勝戦みたいなその日。運命の分かれ道は、すぐそこまでやって来ていて。 「分かりました。じゃあ、家に行くのは予定通り10時で大丈夫ですね……って、なんか雪夜さんよりオレの方が緊張してる気がします」 「実際に、俺より星くんの方が緊張してんだろ。いつも通りに、自分の家に帰るだけって思えばいい」 「そう、ですけど……そんな簡単に考えられてたら、こんなに緊張しませんもんっ!」 俺の隣で、ぷぅーっと頬を膨らませる星は可愛い。俺だって、緊張していないわけじゃない。けれど、俺よりも緊張している星を見ていると、自然と肩の力が抜けて楽になっていく。 「星くん、可愛い」 「もぅ、雪夜さんはズルいです……緊張してるオレが、なんだかおバカさんみたい……でも、雪夜さんのその笑顔大好きです」 鼻と鼻をくっつけ、クスッと笑った俺と星くん。甘いひと時を噛み締め、今日も小さな幸せがあることを実感する。 「好き……すげぇー好き、お前のこと」 「オレも、雪夜さんが好き……あ、でも……父さんと母さんの前では、こんなにくっつかないでください」 「さすがの俺でも、お前の親の前でんなことしねぇーよ」 「雪夜さんは、そういうことに関して聞き分け悪いですもん。見えてないところでってのも、絶対ダメですからね」 ……あ、バレてた。 いつからこの仔猫は、俺の考えを読むようになったのだろう。そして、俺もいつから星の考えが分かるようになったんだろう。 「星、ちょっとは緊張解れたか?」 「あれ……うん、そうみたい」 そう言って、ふにゃりと微笑んだ星の表情に俺は癒されていく。俺の肩にこてんと頭を乗せた星の髪を撫で、心地よい安らぎの時間を堪能して。 大きな緊張感と、小さな期待感を抱きつつ、俺たちは、すぐそこまでやって来ている幸せの足音を感じていた。

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