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第853話

俺の言葉を否定した星には、分からないことなのかもしれない。けれど、星の存在がなければ、俺たちは此処に集まることすらなかったんだ。 そのことを、伝えたくて。 星の家族の前だということも忘れ、俺は星を見つめ、星だけに呟いたけれど。 「……お互いに掛け替えのない人、なのよ。私にとって、貴方がそうであるように。ただ、まだ二人は若いだけ……雪夜君も、星もね」 星の母親の声が聞こえ、俺は我に返った。 父親の肩に、そっと触れた母親の手。 それは、どんな言葉を並べるよりも父親の胸を打つものなのだろう。 「性別のことだってある。思い合っているからといって、相手が男でいい理由にはならん。世の中、そう甘くはない……覚悟は、できているな」 俺と星に向けられた、両親の視線。 ふざけていた光も、ただ黙って俺たちを見守っていて。テーブルの下でそっと俺の手に触れた星には、迷いの色なんてないから。 「はい」 しっかりと、そしてはっきりと。 さまざまな思いを噛み締めるように、俺は答えた。 「……そうか。ならば、お互いを大切にな」 「父さん……」 「ありがとうございます」 きゅっと力が入った星の手を握り返し、俺は星の両親に深々と頭を下げる。 「まだ話は終わっていないのだから、顔を上げなさい。キミの誠実さも、星の想いも、きちんと伝わってきた挨拶だった」 父親に促され、顔を上げた俺の目に映ったのは、儚くも優しく微笑む星の両親の姿だった。 「雪夜君、星をよろしくお願いいたします。二人とも、良かったわね……でも、そこにまだひとりだけ、心の底から喜べない子がいるわ。光、貴方はここに座りなさい」 「母さん、俺はっ!」 「隠しても無駄よ、雪夜君が今どんな思いでここにいるのか考えなさい。光、貴方には全てを告げる義務があるわ」 付き合いを認めてもらえたのも束の間、星の母親は光を俺たちの前に座るように促して。星の母親が座るであろうと思っていたその席に、光はゆっくりと腰掛けた。 凛としたスーツ姿の父親の横に、ちょんまげ頭でスウェット姿の光が並ぶ。腹を抱えて笑いたい絵面であるが、そんな余裕は誰にもなかった。 俺と光の賭けは、ここから。 自分の人生まで星に賭けた男、優との別れを決めた光。俺と星がいくら祝福されたとしても、目の前にいるこの男が心の底から笑えないのなら意味がない。 それを知っている星の母親は、俺にも星にもできないことを成し遂げる。 「星、雪夜君。貴方たち二人のために、光はずっと私たちに頭を下げていたのよ。男同士でも、貴方たち二人ならやっていけるって」 「本来なら、キミがすべきことだ……それを何故、うちの子がしていたと思う。弟のため、友達のため、それだけの感情で、できることではないだろう」 俺が知っていて、星だけが知らない真実。 長年、隠されていた光の思いを家族全員が知る時がきた。

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