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第854話

光と星は知らない、俺と母親との約束。 今日が初対面ではないということも、光と星の間で隠されていた真実も。全てをここで明らかにするために、俺は沈黙を守ることを了承した。 俺と星のために、隠れて両親を説得していた光。その光の姿を、星は知ることのないまま今日ここにいる。優との別れを決めている光、その原因が俺たちにあることは星に伝えてあるのものの、光が取っていた行動まで俺が星に伝えることはなかった。 それは、親の口から話したいと。 母親との話し合いの末、決まっていたことだから。 仲の良い兄弟の、優しさ故の溝。 その現実を突き付ける両親の思いは、どれほどまでに心苦しいものなのだろうか。 「光は貴方たちのために何度も、本当に何度も……私たちに付き合いを認めてあげてほしいとお願いしていたの。星、貴方はその事実を知らぬまま、幸せを手にしてはいけないわ」 驚きと、戸惑い。 その感情を握った手に込めて、小さく唇を噛んだ星は俯いてしまう。 「せいが悪いんじゃない、ユキが責任を感じる必要もない。俺が勝手にやったことだから、二人は知らなくていいことだから……だから、黙ってただけ」 視線を誰とも合わせることなく、そう呟いた光も、星と同様に俯いていた。ここにきても尚、光の強過ぎる意志は変わらないらしい。 小さく息を吐く父親、俺の隣で事実を受け止めようと必死な星。そして、星の母親は、俺に向かいゆっくりと微笑んで。 言いたいことがあるなら言え、と。 星の母親から無言のメッセージを得た俺は、光に向かいこう言った。 「……そうやって隠し通して、塞ぎ込んでりゃそれで満足かよ。王子気取るなら好きにしろ……でもな、感謝も、謝罪も、真面に出来なくなる程カッコつけられたら、こっちの立場ねぇーだろ」 「じゃあ、どうしろって言うのッ!せいがお前を選んだ時から、俺の人生は決まってたんだッ!!だからっ、だから……せめて二人が幸せになってくれなきゃ、俺はっ」 「誰がいつ、幸せになんねぇーなんて言った?俺も、お前も、賭けた相手がわりぃーんだよ。コイツは、星はな、端から自分独りの幸せなんか望んじゃいねぇーんだ」 見開かれる光の瞳、そこに映し出されたのは俺ではなく星の姿で。 「……助けてもらうばっかじゃ、嫌だ。兄ちゃんは、どうしてそんなに自分を犠牲にするの。なんでもっと、自分を大切にしないの」 動き出した歯車は、もう誰にも止めることができない。ここにいる誰もがそう思った時、口を開いた光は、儚げな笑顔を見せ呟いていく。 「せい……ごめん、でも俺には無理だよ」 光の言葉が室内に重く響き、星にとっての希望が絶望に変わった瞬間。 「お前達の気持ちは、よく分かった。雪夜君、キミは私と二人だけで話をしようか……幸咲、光と星のことを頼むよ」 黙ったまま俺たちのやり取りを聞いていた父親が、緩やかに場の空気を変えていった。

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