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第856話
男同士の付き合いを認め、親としての責任を果たす星の父親に。俺は痛いくらいの感謝の意を込め、深々と頭を下げた。
「雪夜君は、見た目以上に堅実だな。もうそんなに、堅苦しくならんで良い……と言っても、私と二人では無理な話か」
「いえ、そんなことは……まぁ、はい」
言葉を濁してみたものの、嘘を吐く気にはなれなかった俺に、星の父親はふわりと笑う。
「子供は大人になっても、親からすれば子供のままさ。まだ半人前の息子をキミにやるのはどうかと思うが、星がキミと二人で生きていくと決めたのなら、私たちはその思いを尊重してやるまでだ」
少しだけ寂しげな瞳に、子を手放す親の決意が現れる。その思いを俺の前だけで打ち明けたのは、星の父親の、男としてのプライドなのだろうと思った。
「卒業後の同棲、やってみるといい。ただ、戸籍については条件がある……キミも星も、まだ社会人として認められる前の立場だ。これから先、どんな困難が待っているかは分からない」
星の母親には、話していた戸籍の話。
同棲の件についても、母親から父親へと話が通っているのだろう。
こんなにすんなりと、承知してもえるとは思っていなかった同棲だが。戸籍については納得してもらえない点が多いのだろうと、俺はあからさまに肩を落としてしまうけれど。
「そう落胆するでないよ、誰も真っ向から否定しているわけではない。二人を取り巻く環境が変わっても、キミと星の気持ちが変わらぬままなら、その時は……書面上でしっかりと、キミたちの幸せを祝福しようと考えている」
「いつ……とは、さすがに断言してはいただけないものなのでしょうか」
「そうだな、あと5年……待ってみないか。国の制度が変わるかもしれんし、その頃にはキミも星も充分周りから認められる存在になっていることだろう。私たちとキミとの家族としての関係性を、その間に築いていくとしようじゃないか」
前向きに検討する、そんな意味を込めた父親からの返答。何処か照れくさそうに差し出された手を握り返した俺は、安堵の色を隠しきれない。
「これからは星だけじゃなく、キミも二人の拠り所として家に帰ってきておくれ。その方が幸咲も喜ぶだろうし、私も……その、キミとなら良い酒が飲めそうな気がしているから」
「ありがとうございます。本当に、なんとお礼を申し上げたらよいか……」
「男は、態度で示せばいい。肝心な時ほど、言葉が出ないものだからな。私も幸咲に、どれだけ助けられてきたものか……光の心を動かせるのは、幸咲と星だけだ。私たちは大人しく、ここで仲を深めておこう」
なんとも可愛らしい父親だ。
手に汗握る時を独りでは過ごせないからと、だからせめて傍にいてくれとでもいうような父親の表情は、俺の心を和ませていく。
あとは、光の気持ち次第でこの先の未来が変わる。今ここで得た新たな道しるべを、星が俺と一緒に歩いていくかどうか……その全ての鍵を握る男の決断を、俺は星の父親と共に待つしかなかった。
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