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第859話

「……兄ちゃん、優さんと幸せになってね?」 雪夜さんがいつもオレにしてくれるみたいに、オレは兄ちゃんの髪を撫でてそう呟いた。 もう、嫌だとは言わせない。 兄ちゃんが優さんを選ばない理由は、どこにもないんだから。だから、頷いてほしいって……最後の最後に、オレは瞳を閉じると神様にお願いしたんだ。 オレに抱き着いたままの兄ちゃん、兄弟でくっついてるオレと兄ちゃんを見て微笑む母さん。 長い長い沈黙の後、ぐすんっと聞こえる泣き声に混じり、兄ちゃんはオレの耳元でそっと囁いてくれて。 「うん……ありがと、せい」 祈れば願いが叶うなんて、人生はきっとそんなに上手くはいかない。オレが願ったことを叶えたのは、兄ちゃん自身の決断と、母さんや父さんの心遣い、そして雪夜さんが影で支えてくれていたからなんだと思う。 独りじゃできないことも、周りにいる人達の小さな言動ひとつで変わる。そのことを教えてくれたメダイユは、オレの大事な宝物だ。 部屋の中をお日様の光が照らしてくれて、心身ともに暖かな時間がやってくる。その暖かさは、オレが大好きな人がくれる暖かさと同じような気がした。 泣き止んだ兄ちゃんには、影のない光だけの綺麗な笑顔が戻ってきて。 「ユキにしてやられた感は正直悔しいけど、せいを好きなあの男には俺も敵わないのかもしれないね……圧勝だよ、やっぱり賭けは俺の負けだった」 そう言った兄ちゃんは、オレから離れて母さんの方に向き直る。すると母さんは、オレと兄ちゃんの目を見てこう言った。 「雪夜君が今日うちに来てくれたのは、星のためでもあり光のためでもあるの。彼はね、貴方たち二人のことをとても大切に思ってくれているわ。自分に何が出来るのか、彼なりに考えた上での結果が今日なのよ」 「なんかそう言われるとムカつくよね、せいがオレに今日家にいてほしいって頼んだのもユキちゃんの入れ知恵だったりするんでしょ?」 「うん、でも雪夜さんは本当に兄ちゃんのことを心配してたんだよ。たまには雪夜さんにも、素直になってあげて……あ、雪夜さんは後回しでもいいから、先に優さんに素直な気持ち言わなくちゃだ」 ホッとした気分のまま、オレも、兄ちゃんも、母さんも。心の中できっと、雪夜さんに感謝している。今こうして笑い合えるのは、雪夜さんのおかげだから。 「優には、後で連絡するからいいの。クリスマスに、もうサヨナラだねって言ったのは俺の方なんだけど……まぁ、いっか」 相変わらずな王子様の扱いに、執事の優さんの気苦労を感じて。オレはちょっぴり苦笑いしつつも、思っていることを隠さずに声に乗せていく。 「優さんは、兄ちゃんのワガママに慣れっこだから大丈夫。それに、昨日雪夜さんが優さんに連絡してたから優さんは今頃……」

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