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第860話

安心したら、思わず口を滑らせてしまった。 優さんと連絡を取っていた雪夜さんから、オレは優さんが今日どんな行動をするか聞いている。だから、優さんなら家の裏の公園にいるよって……オレはうっかり言いそうになり、兄ちゃんの顔を見て口篭るけれど。 「……優は、桜の木の下にいるんでしょ?」 にっこり笑った兄ちゃんから言われた言葉に、オレは頷くしかなかった。どうして分かったんだろうって、オレが目を丸くすると、兄ちゃんはその答えをオレに教えてくれて。 「そんなに驚かないで、せい。俺と優が初めて手を繋いだ場所が、あの木の下なんだ……だからきっとね、優はそこにいるって直感で思っただけだよ」 「……裏の公園で、優さんは兄ちゃんのこと待ってる。今日、もしも兄ちゃんが優さんを選ばなくても、優さんは兄ちゃんのことずっと待ってるからって……だから雪夜さんは、みんなのためにここに来てくれたんだ」 結局、オレは知ってることを全部兄ちゃんに話してしまった。せいはいい子だねって、兄ちゃんはオレの頭を撫で撫でしながら幸せいっぱいの表情をしているけれど。 「光、星、二人ともまだ話は終わってないわ。貴方たち二人に、私と父さんの気持ちを伝えるからよく聞いてちょうだい」 まるで幼い頃のように、嬉しさを表に出しているオレと兄ちゃんに、母さんはそう言うと真剣な眼差しを向けてきて。オレも兄ちゃんも、ちょっぴり緊張しながら母さんの方へと向き直り、どちらかともなくお互いの手を握った。 「二人とも楽な道ではないと思うけれど、自らが選んだ人生に責任を持ちなさい」 優しいようで厳しい母さんの言葉は、オレと兄ちゃんの胸を打つ。 「相手のご両親は受け入れてくれないかもしない、世の中に受け入れられない愛の形かもしれない。それでも、私達は貴方たちが望む幸せを願うから。貴方たちが選んだ相手が同性だとしても、これから先の人生を否定するつもりはないわ」 ここがゴールじゃないって、ここからがスタートなんだって。そう感じているのはきっと、オレだけじゃないはずだ。 「社会に出れば、沢山の困難が貴方たちを待ち受けているわ。一人じゃ躓くこともあるでしょう……でも、愛する人と伴になら、どんなに辛いことがあっても生きていける。私と父さんがそうだったもの」 「……仲良いもんね、母さんと父さん」 「確かに、うちの両親って無敵な感じするかも」 仲が良いのは、夫婦だけじゃない。 兄弟だって仲が良いんだと見せつけるように、オレと兄ちゃんは顔を見合わせ笑い合う。 そんなオレたちを見つめる母さんの瞳は少しだけ潤んで、そして最後に忘れられない言葉をくれたんだ。 「星、光、私達夫婦の子供として産まれてきてくれてありがとう。親のことは気にせずに、心から愛せる相手と伴に生きていきなさい」

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