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第861話

胸がいっぱいになった。 自分がどれだけ恵まれた環境の中で育って、どれだけ愛されているのかを知って。現実を受け止めつつ、母さんからの言葉に、オレは新たな一歩を踏み出そうとする勇気をもらったから。 これが、今の幸せなんだと。 この気持ちを忘れずに、オレは次の幸せが待つ場所へと歩みを進めていこうって思った。 「母さん、ありがと」 そう小さく呟いた兄ちゃんも、きっとオレと思っていることは同じだと思う。 この幸せを一番に共有したい相手の元へ、その腕の中へと一目散に走り出したいくらいの気持ち。父さんと二人でいる雪夜さんが早く戻ってくることを願うオレと、今すぐ裏口から外へと飛び出したい兄ちゃん。 両親からの想いを知った今だからこそ、オレと兄ちゃんはお互いに愛する人の傍で笑いたいんだ。 「……さて、話はこれでおしまい。光、せっかくなら優君も家に呼んであげたらどう?優君に、夕飯みんなで一緒にいかがかしらって伝えてちょうだい」 「あ、分かった。じゃあ、ちょっと出てくるね」 和らいだ雰囲気の中で母さんは兄ちゃんに向かいそう提案して、兄ちゃんもその言葉を聞き入れリビングから立ち去ってしまったけれど。 リビングに取り残され、母さんと二人になったオレは母さんにこう尋ねていた。 「母さんは最初から、全部知ってたの?優さんが待ってるのも、兄ちゃんが優さんを選ぶことも全部……母さんには、オレたちの未来が見えてた?」 「そんなことないわ。母さんは、神様でもなんでもないんだから。ただ、星のことも光のことも私は信じているだけよ」 「……そっか、ありがとう」 「それにしても、雪夜君は本当にいい男ね。父さんの前で言うと機嫌を損ねるから言えないけれど、雪夜君の今日の正装には惚れ惚れしたわ」 うふふって、まるで恋する女の子のように無邪気な笑顔を見せる母さんは、オレの雪夜さんをベタ褒めする。 「雪夜さんは、何を着ててもカッコイイもん。ジャージでも、スウェットでも……雪夜さんはオレのだもん、誰にもあげないんだから」 「あらあら、独占欲の強いことで」 母さんに言っても仕方のないことだと分かってはいても、勝手に口から出ていた欲張りな気持ち。本当はオレも兄ちゃんみたいに雪夜さんの元へと行きたいのに、雪夜さんは父さんに連れられたまま戻ってこなくて。 二人で話そうと言われ、父さんに拉致されてしまったオレの恋人……空いたコーヒーカップを片付けていく母さんの手伝いをしつつ、オレは気になることを母さんに訊いてみる。 「雪夜さんと父さん、今頃どんな話してると思う?」 「そうねぇ、星と光の昔話でもしてるんじゃないかしら。父さんはね、口下手だからあんな感じの対応しか出来ない人だけれど、本当は雪夜君のことを相当気に入っているのよ」

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