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第863話

怒りというより恥ずかしさに任せて、オレは父さんと雪夜さんに今の状態をすぐ止めるように指示を出す。 すると。 父さんは雪夜さんに、また後で話そうとひと言告げて部屋を出ていった。雪夜さんは父さんの言葉に頷き、聞き分け良くアルバムを片付けてくれる。 「……星くん、どうだった?」 ベッドに散らばっていたアルバムを、オレの勉強机の上に置いた雪夜さんはそう呟いて。全てを悟ったような微笑みをオレに見せ、視線を窓の外へと向けた。 だからオレも、雪夜さんの傍まで行って。 雪夜さんと同じように、外の景色へ目を向ける。 花も葉も、まだ彩りのない桜の木。 その木の下で微笑む二人の姿は、オレと雪夜さんが描いた幸せの線上にいるから。 言葉がなくても伝わる想いを共有して、オレの髪を撫でる雪夜さんの肩にオレは頭を預けた。 「桜色に染まってんな、あの二人」 「兄ちゃん、やっと素直になってくれました。今こうしていられるのは全部、雪夜さんのおかげです」 「俺は何もしてねぇーよ。光は、自ら優を選んだ……ただ、それだけのこと」 それだけのことが、どれだけ重要なことなのか。そのことを雪夜さんが一番良くわかっているのに、雪夜さんはそう言って何もしていないと語る。 「ソレ、雪夜さんの悪い癖です。そんなに謙遜しないでくださいよ、オレの立場ないじゃないですか」 雪夜さんは本当に自分が何もしてないと思っているんだろうけれど、そんな雪夜さんに助けられた人たちはたくさんいるんだ。 「あ、兄ちゃん……」 オレと雪夜さんの視線の先、オレたちに気づいて上を向いた兄ちゃんは、ゆっくりと唇を動かして。 「……ありがとう、か」 「雪夜さんの行動は、オレたちみんなを幸せにしてくれたんです。優さんも、兄ちゃんも……辛いことはたくさんあったかもしれないけど、今は二人とも笑ってます。きっと、これが二人の答えなんですよ」 「俺はお前がそうやって笑ってくれんなら、そんで充分なんだけどな。アイツらは、おまけみてぇーなもんだし……でも、すげぇー安心してんは事実かも」 雪夜さんが帰国して以来、雪夜さんはずっと色んなことを抱えて過ごしてきた。兄ちゃんと優さんのこと、オレと雪夜さんのこと。 そのどれもが、今日実を結んだから。 雪夜さんが安心する気持ちは、雪夜さんの傍にいたオレにも良く分かって。 「雪夜さん、お疲れさまでした。今日がゴールってわけじゃないですけど、とりあえずはこれでオレたちも二人でいていいんですよね?」 「当たり前だろ、何のために俺がここまでしたと思ってんだ。最初から全部、お前と一緒に過ごせるようにしてきたことだからな」 雪夜さんの襟足の髪がオレの頬をくすぐり、なんとも言えない安心感に包まれて。家の中へと入っていく兄ちゃんと優さんの姿を見送りながら、オレは幸せを噛み締めていた。

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