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第867話

俺には問われることのなかった、父親の疑念。 聴こえていない素振りをしながらも、俺も星も母親も……此処にいる優以外の人間が、優の言葉を待っていた。 「光でいいのではなく、僕は光がいいのです」 簡潔に、そしてハッキリと。 告げられた優の言葉は、これ以上説明する必要のないものだった。 ごまんといる人間の中で、光でなければダメなんだと。たった一人を示す意味合いを込めた、なんとも優らしい言葉に俺から自然と笑みが洩れる。 優にとって、光の存在は全てだ。 俺にとっての星くんがそうであるように、優もまた、光の存在がなければ生きる意味を失うだろう。多くを語らない優の決意の表れと、精一杯の愛情の形。 ただ、ひと言。 そこにある重さを感じ取れないほど、星の父親は頭が固いわけじゃないから。優の言葉を受け止めた父親は、アルコールが入ったグラスから光へと視線を移して口を開く。 「……そうか。良かったな、光」 「うん、ありがとう」 知らぬ間に光に植え付けてしまった、親への罪悪感。そのことを気にしているように思えた父親だが、これで親子の見えないわだかまりも解消されていくのだろうと思った。 少ない会話の中に溢れるそれぞれの愛情、俺と星とは異なる表現で父親に想いを伝えた二人は、心底幸せそうに見つめ合い、そして軽く微笑んで。室内に漂う空気が甘く、そして全員が気恥しくなってきた頃。 誰も何も言えない状況の中、俺はわざと場の空気を乱していく。 「お取り込み中のところわりぃーんだけどよ、料理出来なくても皿くらい持っていけんだろ。執事、座ってねぇーで手伝えや」 「人遣いが荒いぞ、雪夜」 「俺に言わないところがユキちゃんだよね、本当によく分かってる。優、いってらっしゃい」 「雪夜さん、生クリームもついでに出しておきますね」 四人が各々いつも通りの姿になり、さっきまでとはまた違う和やかさを取り戻す。 「本当にみんな仲がいいのね、貴方たちの関係性がよく分かるやり取りだわ」 「今日はもう、好きにすればいい。雪夜君と優君には、また改めて時間を作ってもらうとしよう」 にっこり笑う母親と、酒に舌鼓を打ちそう言った父親。優は席を立ちキッチンへとやってきて、光はその場を動かない。俺は茹で上がったパスタをザルの中へと流し入れ、星は優に指示を出す。 「優さん、食器棚の中にある白くて四角いお皿を出してもらってもいいですか?」 「……コレのことか?」 「あ、それです。取り皿として使うので、人数分用意していただけると助かります」 「働き者がいっぱいいるって、最高だね」 ソファーに腰掛け、一人だけ優雅に酒を飲みながら俺たちへ視線を向けて笑う光。ありのままの光の姿に、俺たち三人は安堵するけれど。 「光、貴方は王様じゃないのよ」 そう言った母親は、呆れたように息を吐いた。

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