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第869話
食事の用意が終わり、全員が食卓を囲んで。
それぞれ飲み物が入ったグラスを持って、そっとグラスを合わせた。
何に乾杯しているのかよく分からないが、俺の隣で星くんが幸せそうに笑っているから良しとしよう。
「ユキちゃんと優が家にいるって、今更だけど不思議な感じだね。というか、二人とも体格いいから家が狭く感じる」
「でも、人が密集してると部屋が温かいわ。最近は光も星も家にいないことが多かったから、母さんとしては嬉しい限りよ」
テーブルの上に並ぶ料理を取り皿に移しつつ、光の発言に対して母親は心底嬉しそうにそう言っていた。
「雪夜君と優君も、これからは遠慮なく家に来てくれて構わない。私に言い難いことは幸咲に話せばいいし、変な気遣いは無用だ」
「誰も父さんに気遣ってる人なんていないよ、ユキも優も自然体って感じだし」
父親への扱いが雑なのは、おそらく光なりの照れ隠しなのだろう。優を手放そうと必死だったここ最近の光は、見るに耐えないほど痛々しく思えたけれど。
今、これだけキレイな笑顔で優の傍にいる男は、ようやく掴むことのできた幸せと向き合っているのだと思った。
「お前が一番、自然体だと思うけど。家ん中で、王子スマイルに磨きかけてどうすんだ」
優がいるからこその光の笑顔を真正面から受け取った俺は、光にそう洩らすけれど。
「えー、暗いよりはいいでしょ?」
「確かに。綺麗だよ、光」
せっかくの父親からのありがたい言葉が、優の惚気によって見事に薄れていく。どの場面でも自分たちのペースを崩さない光と優だが、ある意味尊敬する。
「……なんかコレ、甘過ぎませんか?」
そんな二人のやり取りを見つめ、少しだけ羨ましそうにそう呟いた星くん。しかし、星が頬張っていたのは星自身が作った卵焼きで。
その卵焼きの一つを箸で摘み、星はそれを俺の口に運んできたから。俺はそのまま口を開けてやり、卵焼きを食べていく。
「そうでもねぇーよ、すげぇー美味いじゃん」
いつもより少しだけ、甘さが強い気がしなくもないが。美味いことには変わりなくて、俺は思ったことを星に伝えてやり頭を撫でてやるけれど。
「……甘いのはユキちゃんだよ、せいに対しては本当に甘い男だから困る」
「それを言うなら、光も似たようなものだろう。俺は、皆が星君に対しては甘いような気がしているけどな。でも、それも悪いことではないだろう」
「俺より甘い、お前にだけは言われたくねぇーよ」
「 確かに、優さんは兄ちゃんに甘過ぎかもです」
「若いわねぇ、青春って感じかしら。ねぇ、守さん?」
「そうだな、幸咲」
ワイワイ、ガヤガヤ。
そんな擬音が良く似合う食事は、単純に楽しくて。こういった家族の風景も悪くないのかもしれないと、きっとここにいる全員がそう思ったとてもいい時間だった。
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