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第872話

朝、温かい布団の中から出られない。 目覚まし時計代わりにしているスマホのアラームが鳴っても、起きなきゃって思っていても。 「さむぃ……」 冬の寒さは、人を冬眠でもさせようと企んでいるに違いないと考えてしまうのは、隣に雪夜さんがいないからなのかもしれないけれど。 それでも、オレはのろのろと起き上がり学校へ行く支度をしてちゃんと家を出た。 「セイ、おはよ」 「……おはよう、弘樹」 家の前で待っていてくれた弘樹と朝の挨拶を交わし、オレは身を縮めながら歩いていく。でも、弘樹はそんなオレとは違っていて。 「弘樹ってさ、朝から元気だよね。今日も家までダッシュしてきたの?」 寒い寒い、冬の日。 そのうち雪でも降りそうな天気なのに、弘樹は薄手のコートすら脱いでいる状態だった。オレはきっちりコートもマフラーも手袋もして、防寒対策をしているというのに。 「セイの家までダッシュすると、うまい具合に体が温まるからさ。ちょうどいいんだよ、今日みたいに冷える日は特にな」 「もう部活だって引退してるってのに、よく毎朝走れるね。遅刻しそうとかならまだしも、急いでもないのに走るなんて無理……というより、寒い」 寒さなんて関係なく、無邪気に外を走り回れたのはいくつの頃までだったんだろう。今では体育の時間ですら、オレは動きたくないと思ってしまう。 「なんかやっぱり、一緒にいると似てくるもんなんだな。白石さんも寒がりだろ、それがセイにうつったんじゃね?」 「そんなことないと思う……けど、そうかも」 寒がりな雪夜さんと一緒にいると、オレはいつもなぜか温かく感じているから。もしかしたら、そのギャップで余計に寒さを感じるようになったのかもしれないと。おかしなことを考えつつ、オレは弘樹とともに学校へ向かった。 「弘樹くん、青月くん、おはよ。今日も寒いね、早く教室入ろ」 道行く生徒に紛れながら、校門の前までやってきた時。オレと弘樹に声を掛けてくれたのは、相変わらず可愛らしい西野君だった。 「西野君、おはよう。西野君も弘樹と一緒で朝から元気だね、あながち弘樹の言ってたことは間違いじゃないのかも」 「え、なんの話?」 「付き合ってると、恋人同士似てくるって話。悠希が俺に似て、朝からでもヤッちゃえるような元気いっぱいなヤツだってこと」 ……そんな話は、していない。 けれど、弘樹にそんなことを言っても無駄なことくらい分かっているから。オレは弘樹に、心の中でそう呟いて。 「似てるかどうか分かんないけど、こんなバカには絶対にならないから安心して」 弘樹の発言に、オレよりも深い溜め息を吐いた西野君は、上手に弘樹を飼い慣らす。 「悠希、酷くね?」 「酷いと思うなら、少しは勉強したらどうなの。脳内筋肉なんて笑えないから、しっかり卒業出来るようにして。一緒に卒業、するんでしょ?」

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