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第873話
西野君の問いに、弘樹は迷わず答えていく。
「もちろん、俺だってバカなりに勉強してっから。お手柔らかにお願いしますよ、悠希クン」
得意気にそう言った弘樹と、そんな弘樹に笑いかける西野君。自然と肩を並べて歩いていく二人の姿が微笑ましくて、オレはそっと一歩後ろへと下がった。
そうして視界に入ってきたのは、見慣れた校舎とたくさんの生徒。学校へ来ることが当たり前になっているオレたちだけど、この時間が少しずつ当たり前じゃなくなっていることに本当は気づいてる。
同じ制服を着て、同じ学校へ足を運ぶ。
高校生としての生活は、明日もやってくるけれど。毎日のように続いていたはずの学校生活にも、終わりがくるって分かっているんだ。
でも。
分かっているから、気づいてるから。
不安や期待をひた隠して、オレたちは今日も笑い合う。いつも通りにって、まだ終わらないからって……心に感じる寂しさに負けないように、当たり前の日常を繰り返す。
「じゃあ、また昼にな」
「ちゃんと授業に集中するんだよー、居眠りしたらお弁当あげないから」
「西野君、さすがだね」
弘樹と教室が違うオレと西野君は、弘樹のことを揶揄いつつ自分たちの教室に入っていく。ヒラヒラと手を振って、西野君の背中を見送る弘樹は面倒くさそうに自分の教室へと向かっていった。
そして。
「チビちゃん、おはー」
「……青月、西野、はよ」
教室に入ったオレたちを迎えてくれたのは、誠君と健史君で。誠君は教卓の上に座って足を組み、健史君は黒板を背凭れにして居眠りしそうになっていた。
「おはよう。二人とも、横島先生来る前に席についておいた方が身のためだよ」
朝のホームルームが始まるまでには、まだ少し時間があるけれど。行儀がいいとは言えない二人の行動に、横島先生が注意しないはずがないから。
オレは二人に声を掛け、今のうちに怒られないような行動を取るように促したけれど。
「バカは高いところが好きっていうし、パーマはそのままそこで座っとけばいいじゃん。ストレートは、寝るなら自分の席で寝なよ」
誠君をパーマ、健史君をストレートと呼ぶ西野君は二人にそう言ってケラケラと笑う。
「西野、マコのこと頼む。マコにならバカでもクソでも死ねでもなんでも言っていいから、とりあえず俺は寝る」
「ケンケンッ、今寝たらお前ずっと起きねぇだろ!せめて一限くらい頑張れよ、何のために俺がこうしてケンケンのこと構ってやってると思ってんだッ!?」
「は?」
誠君が健史君に構っていようと、健史君が誠君を構っていようと、誠君が騒がしいのは変わることがない。眠いからか、それとも誠君のテンションの高さに呆れ返っているのか……健史君は、心底うっとおしそうに眉間に皺を寄せた。
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