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第874話
普段通りの教室は、今日も朝から賑やかで。それが嬉しいと思ってしまうオレは、やっぱりまだ旅たちの準備ができていないんだと思った。
「……あ、日直だったの忘れてた。ごめん、僕ちょっと職員室行ってくる。青月くん、二人のことは任せたから後のことよろしく」
「西野、お前マジ悪魔」
「ケンケンッ、俺の話聞けよッ!!」
日直の仕事をしに、西野君はさっさと教室から出て行ってしまった。誠君は未だに教卓の上から降りようとしないし、健史君はご機嫌ななめのまま誠君を睨みつけて動かない。
二人をほっといて自分の席につくことだって、やろうと思えばできることだとは思うけれど。オレはそれができるほど、心の強い人間じゃないから。
正直、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ面倒くさいと思いつつも、オレは二人のあいだに割って入ると小さく溜め息を吐いた。
肩に掛けたままのバッグは重いし、早く着席してホームルームが始まるまでのあいだ、オレは窓の外を眺めていたい。この教室から見る景色だって、いつまでもあるわけじゃないんだ。
だから、だから早く二人とも大人しくオレの言うことを聞いてほしいと。そう心の中で叫び、オレは無言で視線だけを誠君と健史君に向ける。
「……ゴメンナサイ、降りますッ!今すぐココから降りて自分の机に座るから、チビちゃん怒んないでッ!!」
そうオレに叫んだ誠君は教卓の上からぴょんと飛び降り、オレから逃げるように一番後ろの席へと向かう。
「座るのは机じゃねぇだろ、椅子だ」
誠君の背中を追うようにして、健史君も自分の席まで歩きながら誠君にツッコミを入れて。
「んなもん、なんでもいいんだよッ!!」
健史君に吠えた誠君を見て、オレはわざとらしく大きな溜め息を吐く。
「良くないです。誠君、座るならちゃんと椅子に座ってください。それと、健史君は授業中の居眠り禁止です。二人とも、分かりましたか?」
逃げた二人の背後から、オレはニヤリと笑ってそう言った。怒られたくないのなら、最初から怒られるような行動を取らなきゃいいだけの話。
そのことを分かっているのに、分からないフリをしているのが健史君と誠君のコンビだ。そんな二人のことが好きだからこそ、オレはみんなで一緒に卒業したいから。
二人に少し厳しくしたオレに、健史君は机に突っ伏し視線だけをオレに向けて呟いた。
「青月、居眠り禁止はキツイんだけど……俺、マコより処罰重くねぇか?」
「チビちゃん、ケンケン昨日の夜中まで調理師免許の筆記試験対策してたらしいから許してやって」
「それって、冬休み中に配られた対策プリントのこと?」
「……ん、アレやってて寝てねぇの」
綺麗で整った顔の健史君がそう言いながらゆっくりと目を閉じていく。
「授業中寝てたら俺が起こすからさ、今は寝かしてやって」
反省しましたと言いたげな誠君の表情も、とっても可愛いなんて思いながらも。オレは笑いを堪えて、わざと怒りの表情を見せて薄笑いを零した。
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