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第875話

「チビちゃんって普段大人しい分さ、怒らせると怖ぇタイプだよな。俺の話は聞かねぇクセに、ケンケンもチビちゃんのいうことなら聞くし」 朝のプチ騒動も収まりを見せ、何事もなく午前中の授業が終了して。温かい場所を求めて横島先生がいる調理準備室まで向かっているのは、オレと誠君と健史君の三人。 お昼休みに弘樹に会いに行った西野君は、今頃きっと風が吹き抜ける中庭で、心だけは温かく過ごしているはずだ。 オレたちも屋上でご飯を食べようかって話になったりしたけれど、今日はあんまり天気が良くないから。好きに使える準備室で、お昼休みを過ごそうってことになって。 「俺、横島んとこで寝よ……青月が変なこと言うから、結局授業中一睡もしてねぇし。元はと言えば、ぜーんぶマコのせいだけど」 「二人とも、まだ朝の話してるの?」 「ケロッとした顔してんの、チビちゃんだけだから。ケンケンは寝不足だし、俺は暇だし」 準備室までの長い廊下を、オレたちは三人で話しながらもぞろぞろと歩いていく。すると、丁度いいタイミングでオレたちの背後から横島先生がやってきた。 「……お前ら、広がって歩くんじゃない。今日は来るだろうと思っていたが、案の定だ。そこどけ、鍵開けてやる」 「昌人ぉ、気が利くじゃん」 「横島、早くして」 廊下の底冷えを少しでも感じたくないのは先生も同じなのか、誠君と健史君の言葉に吠えることもせず、横島先生はすんなりと部屋の扉を開けてくれて。 一番乗りで入っていったのは誠君で、二番目に健史君、その後に続きオレが部屋へと入って、扉を開けた横島先生が最後にまた扉を閉めていく。 「腹減った、昌人」 実習で使う余りの椅子が、適当に部屋の隅に置かれている。ソレを手に取り、ご丁寧に三つ並べてくれた誠君は態度は悪いものの性格がいい。でも、やっぱり先生を呼び捨てするのは良くないことだと思う。 「マコ、あんがと。おやすみなさい、俺」 並んだ三つの椅子のひとつの上に座り、そう言って瞳を閉じた健史君も。誠君には結構キツイことを言うところがあるけれど、それでも感謝の言葉を忘れない心優しい人だと思った。 そして、先生も。 「相変わらず自由なヤツらだな。青月はともかく、お前ら二人が社会に出てやっていけるのか俺は心配だ」 お腹が空いたと騒ぎ始める誠君と、眠りにつき始める健史君を見比べて。人間の欲求は奥深いと、独り言のように呟いた横島先生は生徒思いのいい先生だと思うから。 「横島先生、今日もお疲れさまです」 なんとなく。 先生に労いの言葉を掛けたオレは、これ以上二人が悪さをしないように二人が座る椅子のあいた、三つのうちの中央の椅子に腰掛けたんだ。

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