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第877話
「確かに夏目が言うように頭は悪いが、長谷部は志望動機を素直に話してくれた。年の離れた弟や母親のために、手に職をつけたいと……誰かのためを思えるヤツだから、コイツなら大丈夫だと判断したんだ」
「ケンケンってバカだけど、そういうところはしっかりしてるっつーか、意思は強いかも」
「でも、それは誠君も同じじゃないかな。オレが初めて二人と話した時、二人とも見かけによらずしっかりしてるんだなぁって思ったもん」
二人のことを見た目で判断していた過去の自分を振り返り、屋上でオレを受け入れてくれた誠君と健史君のことを思い出す。
近寄り難い人たちだと思っていたけれど、誠君も健史君もオレより考え方が大人で、ちゃんと自分のことや家族のことを考えられる人だったから。そこに見え隠れしていた二人の優しさに、きっと横島先生は気づいていたんだろうと思った。
「長谷部は補習ばかりだし、夏目はモラルを守らない。いつ退学になってもおかしくないお前らを庇う俺の身にもなってもらいたいが、お前達は何があっても俺の手で卒業させてやる。残り数ヶ月、覚悟するんだな」
「いいヤツぶってんじゃねぇぞ、このスパルタ教師ッ!!俺がどんだけ反省文書いたと思ってんだよ、反省することなんかなんもねぇだろーが」
「んー、結構いっぱいあると思う」
「青月、それは正解だ」
今となっては遅刻することもなくなった二人だけれど、制服を着崩したスタイルは変わらない。それでも、そんな二人のことを見放すことなく面倒を見てくれる横島先生は、オレの呟きを否定しなかった。
「今のうちにしか出来ねぇことが沢山あんだよ、大人に歯向かうことだって俺にとっては大事なんだ。だから俺は、何言われたって反省しねぇもーん」
腰掛けた椅子をカタカタと前後に揺らし、堂々とそう言った誠君。その姿は妙に子供っぽくて、でも何故か少し納得してしまうようなものだった。
「オレたちは、色んな人たちから守られてる存在なのかもしれないね。今はまだ、親とか先生がいるからオレたちはある程度の自由があるのかもしれない。子供だから許されることがあって、大人だから正さなきゃいけないこともあるんじゃないかな」
「チビちゃん……お前って、やっぱなんかすげぇよな。俺らがお前に逆らえない理由、なんとなく分かった気がする」
「そう思うなら、青月のいうことを聞いておくように。不真面目なお前らと真面目な青月が親しくなって、いい対比効果になったワケか」
「……マコ、ばぁーかぁ」
ちょっぴりしんみりした室内、すぐそこまでやってきている大人の階段を上らなきゃいけないオレたちだけど。健史君の小さな寝言は、オレや誠君が感じている僅かな不安を吹き飛ばしてくれるような、可愛らしくて暖かなものだった。
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