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第878話
【雪夜side】
星がいなくても、晴れやかな目覚め。
ここ数日そんな朝を迎えることが出来ているのは、星の両親に付き合いを認めてもらえたことが大きいのかもしれない。
正月気分が僅かながらに残っていた1月が終わり、気がつけば月も変わって2月の始めになっていて。毎日のように自動車学校に通っている星と対称的に、俺は俺でそれなりに忙しい日々を送っている。
「白石ぃー、卒業式ってやっぱスーツじゃねぇと駄目なのかなぁ……俺、きっちりかっかりした服って好きじゃねぇんだけどなぁ」
そう俺の横で呟くのは、卒論をギリギリで完成させたおバカな康介だ。1月末の提出期限まで、俺がコイツにどれだけ世話を焼かされてきたと思っているのか知らないが、本人は呑気に卒業式の話をしていて。
「お前さ、まだ卒業認定出てねぇーから。不認定だったら、そんな心配いらねぇーから安心しろよ」
「怖いこと言うな。単位はギリギリ、論文もギリギリ、教授に泣きついて、無理矢理卒論見てもらってなんとか提出した可哀想なこの俺に、お前は更なる恐怖を浴びせるのか?」
「恐怖もナニも、俺は事実しか言ってねぇーもん。毎回ギリギリでも生きていけいるだけマシなんじゃねぇーの、俺はそんなんイヤだけど」
お互いにバイト先への就職となる俺と康介は、この期間にバイトを辞めていく学生も多い中、それでも関係なくバイトに明け暮れている。年末調整やらなんやら、色々と税金対策でバイトを辞め、卒業旅行に出掛けているヤツらも少なくないというのに。
空いた時間を利用して、二人で訪れた大学内のカフェテリア。旅行に行く費用を同棲の資金に回したい俺と、単純に金欠の康介はこうしてくだらない話をして時間を潰すしかなくて。
「卒業出来ても、俺は今とあんま変わんねぇ生活なんだろうなぁって思うと虚しい」
「正社員雇用じゃねぇーもんな、お前」
「おうよ、契約社員様だ。なんとかギリギリ生きていけますって感じだから、やっぱ今と変わんねぇ」
ぼんやりと天井を見上げて呟く康介と、今のうちに仕事の書類に目を通している俺。研修も済んで、年が明けたこともあってか、本格的に引き継ぎを開始した竜崎さんから渡されている雑務は山のようにあって困る。
入社式なんてもんは関係なく、雪君はもううちの社員ですからって。よく分からない理由をつけて仕事を押し付けてくる上司ではあるが、竜崎さんからの信用度が日に日に増している気がして、俺としては嬉しいことでもあるのだが。
「あーぁ、空から金でも降ってこねぇかなぁ」
明らかに前へと進む俺を遠ざけるかのように、ありえないことをほざく康介。俺はそんな康介と、視線を合わすことのないまま問いかける。
「金と女なら、どっちがいい?」
「女ッ!!」
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