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第879話
見事な即答。
ここで金と答えない康介は、俺より性欲の塊だと思う。バカな男の夢と現実、それは俺を楽しませるだけで康介本人としては面白みのないものなのかもしれないけれど。
「女も金も、降ってくるワケねぇーだろ。どっかのファンタジーアニメじゃねぇーんだから、お前は現実を見ろ」
俺の頭を使うことなく付き合えるコイツは、うるさいことを除けばそれなりに良いヤツで。遊びがいがある康介を、俺の横においておくのは嫌いじゃないんだが。
「現実見たって、俺の前には仕事中の白石しかいねぇもん。無駄にイケメンオーラ出すなよな、腹立つッ!」
「俺の今の状態の何処がイケメンなんだよ、ただ書類見てるだけじゃねぇーか。こんなんでイケメンになんなら、お前だってそのうちイケメンの仲間入り出来んじゃねぇーの?」
天井を見ていた視線を俺へと移し、康介は文句を垂れる。それが無性におかしくて、康介の目を見てそう言った俺は口角を上げた。
「……思ってねぇだろ、白石」
「よく分かってんじゃん、バカ」
眉間に皺を寄せてあからさまに不機嫌を装う康介に、俺は柔らかく微笑んでやる。気付かぬうちに長い付き合いになっていた男、出来ることならこの先もコイツのバカさを俺に披露してほしい。
「はぁ……ったく、俺が白石みてぇな顔してたらまだしも、この顔で書類見てるだけじゃ百年掛かってもイケメンになんてなれねぇわ。お前はな、その存在だけで充分カッコイイんだよッ!!」
「そりゃ、どーも。でも、そういう言葉は俺じゃなくて未来のカノジョに言ってやれ。お前みたいなバカと、付き合ってくれる女がいるかどうかは別としてな」
「はぁ?女にカッコイイっつってどうすんだよ?」
「はぁ?じゃねぇーだろ、お前ホントにバカだな。存在そのものが大事で、コイツがいたら何もいらねぇーって思える相手にその言葉を贈ってやれっつってんの」
「うん、だから言ったじゃん」
話が、噛み合わない。
俺をまじまじと見つめて首を傾げる康介と、持っていた書類をテーブルの上に置き前髪をかき上げた俺。そのままお互い無言の時間が続き、康介の考えが読めた俺は溜め息を吐くしかなかった。
「……康介、お前って俺のコト好き?」
「今更なんだよ、好きだって何度も言ってんだろ。俺は白石が好きで嫌いで、生きててほしくて死んでてほしい。だから、白石の存在こそが俺にとっては大事なんだ」
「だーかーらッ、俺じゃなくてお前がその感情を向けるのは女だろ。でもまぁ、今はありがたくもらっといてやるよ」
「イケメンのクセして、お前も分かんねぇヤツだなッ!女にカッコイイっつたら、即フラれんだろッ!!」
ダチとして一番、康介のその思いが俺は素直に嬉しいと感じられたのに。俺の最後のひと言は、康介には届かなくて。大学を卒業しても、コイツには構ってやりたいと思った俺の心の内は、悟られないままだった。
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