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第881話

小さな希望なのかもしれないが、それでもこのおチビさんはその希望を大きなものに変えるだけの力を持っているヤツだと思った。 子供たち一人一人に寄り添い、期待や不安を抱える背中をそっと押してやることが出来るなら、その役目を果たせるのなら。俺は悪い見本として、このおチビさんに言ってやれることがある。 「最後のロッカールーム……高校サッカーで名門校目指すなら、中学で部活も勉強もどっちもしっかりやれよ。お前は、俺みたいになんじゃねぇーぞ」 星くんの両親へ挨拶に行っていた俺は、全国高校サッカー選手権の決勝をリアルタイムで観戦することは出来なかったけれど。 その選手権の裏側、選手たちがどんな思いで最後の試合に挑み、そしてその結果をどう受け止めていくのか。その一部始終を収めたものが、最後のロッカールームだ。 中学から部活でやっていくと決めているのなら、目指す場所は国立。幼い頃の俺が憧れていた舞台に、このおチビさんも憧れを抱いている。 だから。 好きなことを嫌いになって、描いた夢を諦めて……こんな俺みたいなヤツになるなと、俺がそう言った時。曇りのないキレイな眼差しで、長谷部は真っ直ぐ前だけを見つめ呟いていく。 「白石コーチ、俺はコーチのこと好きです。足技とかすげぇ上手いし、話も聞いてくれるし。昔のコーチがどんなんだったか俺は知らないけど、俺はコーチのこと尊敬っていうのかな……そんな感じ、してます」 キレイな瞳に映るのは、ひとつのゴールとひとつのボール。どれだけ小さくても、まだまだ未熟だったとしても。強い意志を持った少年の心は、俺の胸を打つ。 「長谷部、ありがとな」 「……でも、俺はコーチみたいになりませんから。俺は必ず、立ってみせます……俺が夢見てる、最高のフィールドに」 「その気持ち、絶対忘れんなよ」 「はいっ!」 指導者が教えられることは、少ない。 むしろ、教わることの方がこの先多くなっていくのかもしれない。長谷部のように夢を追いかける子供たちと一緒に、共に悩んで成長していける場がこのスクールだから。 「お前ら、ボール蹴る前にまずやることあんだろ!練習でケガして、試合出れなくなったら意味ねぇーだろうがッ!!」 長谷部と話しつつも、中学生の動きを見張っていた俺はそう言って声を出した。 「やべッ、イッシーがキレた」 「けど、イッシー吠えんの珍しくね?」 思い思いのことを呟き、俺を見る生徒たち。 この冬の寒い日は体がなかなか温まらないから、ストレッチとランニングは念入りにやるように口酸っぱく言っているのに。中学へ上がり、それなりに気も大きくなる多感な年頃のヤツらを指導するのは地味に辛い。 気が緩んでいるらしい一部のスクール生を叱り、俺は今日の練習メニューを変更しようと考えていく。ボールに触れたくてたまらないヤツらの集団、そんな子供たちが少しでも夢に近づけるように。

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