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第888話

ゆっくりと開いた扉の先、その向こうには部屋を包み込むように柔らかな夕陽が差していて。南向きの玄関から一直線にリビング、そこからベランダへと続く間取りは雪夜さんが今住んでいる部屋と変わらないけれど。 「……すごい、広いっ!」 ワンルームの部屋と全く違う間取りは、まだ玄関で突っ立っているオレから見てもとっても広くて開放的な空間だってことがよく分かって。 「広いっつっても、2LDKだけどな。まぁ、今のワンルームに比べたら広いか」 「だって、だって……あ、すごい!玄関にも、ちゃんと収納スペースがあるっ!」 「俺の仕事柄、シューズはどうしても多くなるから収納は確保しときたくて。つーか、ここで話しててもなんだから、靴脱いで部屋んなか入れ」 まだ玄関なのに、興奮を抑えきれないオレを見て。雪夜さんは苦笑いしつつも、収納スペースからスリッパを出してくれた。 「えっと、お邪魔します」 「お邪魔しますって、これからここはお前の家になんだけど……まぁ、いっか」 とっても綺麗な部屋に足を踏み入れたオレは、誰に挨拶しているのかも分からず部屋の中を探索する。オレのすぐ背後で雪夜さんが何か言っていた気がするけれど、その声はオレの耳に届かなくて。 「わ、ここがトイレで、こっちがお風呂だ!バスタブ大きいっ、嬉しい!」 閉まっている扉を開けて、その度にはしゃぐオレは自分でも幼いと思う。でも、そんなこと言っていられなくて、オレは次々と閉ざされた扉を開けていく。 「すごい、この部屋だけでオレの部屋と同じくらいの広さがある……あ、クローゼットもちゃんとある」 「お前の部屋は6帖だろ、この部屋は5帖しかねぇーからここの方が狭い。その代わり、リビングはそれなりに広さあるから安心しろ」 玄関を真ん中にして左手に水回り、そして右手に洋室が二つ。リビングはやっぱり広々していて、オレはそれだけで満足度のメーターゲージを振り切っているのに。 「雪夜さん、雪夜さんっ!!」 キッチンへと目を向けたオレは感激し過ぎて言葉が出なくて、ただただ雪夜さんの名前を呼ぶ。 「対面式のシステムキッチン、お前の理想だ」 オレの代わりにその思いを言葉にしてくれた雪夜さんは、喜んでいるオレの頭をくしゃりと撫でて笑った。 今の雪夜さんの部屋も、嫌いじゃないけれど。 ワンルームの雪夜さんのお家だと、キッチンに立つとどうしてもソファーやベッドで寛ぐ雪夜さんに背を向けなきゃならないことが寂しくて。 もしも新しいお家で一緒に住むってなったら、その時は対面式のキッチンがいいなって……オレはずっと、そう思っていたから。 「……どうしよう」 嬉しくて、嬉しくて。 やっとオレから出てきた言葉は、気に入るなんてどころじゃないくらい喜びに溢れていたんだ。

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