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第893話

アホな友人から離れ、キッチン用品をゆっくり見ている俺は、星から言われた言葉を思い出す。 雪夜さんのお部屋の雰囲気はとっても落ち着くから、インテリアのコーディネートは雪夜さんに任せますって。 ありがたいことにそう言ってくれた星だが、キッチン関連の物については星くんと一緒に選んだ方が良さそうだと思っている俺は、とりあえずある程度の目星だけつけておこうと考えていたのに。 「あ、このマグ可愛い!優はこっちのシルバーので、俺がこっちのゴールドの……ハイ、ユキちゃんこの二つ買ってきて」 いつから俺の傍にいたのか定かではないが、機嫌が直ったらしい光は、真っ白なカップの淵と取っ手がゴールドとシルバーになっているエレガントなデザインのマグカップを二つ手に持ち俺に差し出してきて。 「……は?」 相変わらずな王子の行動に、俺は呆れてしまうけれど。 「は?じゃないの。せいとユキちゃんの新居に、俺と優のマグ買っておいといてよ。俺たちが遊びに行ったら、このマグでコーヒーだしてね?」 光はそう言いつつ、差し出したマグを俺が受け取らないことに気づくと、そのまま優にそのマグを渡して新たな商品を手に取っていく。 「アルコールは、こっちのグラスでだしてくれたら尚更嬉しいなぁ」 シックなブラックのタンブラーを手に持った光は、上目遣いで俺を見る。確かに、光が見つけたソレで酒を飲んだら絶対美味いとは思うけれど。 誰が、お前ら二人を家にあげるっつったんだ……と、俺は内心そう思いながら、新しい住まいとなる場所は俺だけの家じゃないことにも気がついて。 「真空断熱か、悪くない。ステンレスタンブラーでも、このデザインなら文句なしだ」 どうやら優も光と同じ考えなのか、俺は仕方なく友人二人の意見を呑むことにした。 「マグはどうでもいいけど、そのタンブラーは俺も欲しい。優、ソレ四つ買ってくれ。本当は、住む場所変わっても今まで通り星くん以外立ち入り禁止にしてぇーけど……たぶん、星くんがお前らなら喜んで受け入れちまうだろうからな」 俺だけではなく星くんの家にもなる新居には、コイツらを招き入れることになる覚悟をし、俺は光が望んだマグとタンブラーの支払いを全て優に押し付けた。 「雪夜と星君には、世話になったからな……引越し祝いとして、お前らの分も買ってやろう。その代わり、マグもタンブラーもお前の家においといてくれよ?」 「イヤだ……って言いてぇーとこだけど、星くんに怒られそうだから大人しくしといてやる」 「ユキちゃんは、すっかりせいのいいなりだねぇ……卒業したら皆んなの時間が合う時なんて滅多にないんだろうけど、でもこれで楽しみが一つ増えた」 悪魔二人からの、素直じゃない祝福。 この先も変わらずに、俺たちはこうしてバカな話をしていくんだろうと。そう思うことが出来た、暇潰しのひと時だった。

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