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第899話
【星side】
高校生活、最後の最後。
待ち受けていた試験も終わり、卒業の日を待つだけとなったオレは、今日の朝から雪夜さんと引越しの準備をしている最中で。
「雪夜さんの部屋にある物で、いらない物ってないんじゃないですか?」
ざっと部屋を見渡したオレは、何をどれだけ新居に持っていくか、頭を悩ませている雪夜さんに問い掛けた。
「それな……正直、全部いる物ばっかなんだけど。そん中でも、よく使うもんと滅多に使わねぇーもんがあっからさ。今の段階で分けておいた方が、向こう行った時に楽かなぁって」
そう言いながら、咥えていた煙草の火を消した雪夜さんは、本格的に作業に取り掛かるつもりなんだと思った。
手伝う気満々でここにいるオレは、空のダンボールに囲まれつつ雪夜さんに提案する。
「じゃあ、ダンボールごとに仕分けしましょう。使う物はこっちで、使わないけど必要な物は、こっちのダンボールに詰めていけばよくないですか?」
「ん、そうっすか。星くんに使わねぇーもん渡してくから、適当に箱ん中詰めてってくれると助かる」
悩んでいるように見えて、簡潔に指示をくれる雪夜さん。そんな雪夜さんはクローゼットを開けると、整理整頓されている中のものをひとつずつ確認していく。
「やっぱ、いらねぇーもんなんてねぇーな……こん中、サッカー関連の物ばっかだったわ。んー、コレは使わねぇーけどいるもんだろ」
「むしろ、これから使うことが多くなる物なんじゃないですか?サッカー雑誌とか手に取りやすいように、新居にはちゃんとした本棚揃えた方が良さそうですね」
雪夜さんから手渡されたサッカー雑誌や漫画をダンボールに詰めながら、この人は本当にサッカー以外に興味がない人なんだと思ってオレは笑ってしまう。
好きなことが詰め込まれたクローゼットの中を、初めてオレが覗いた日のことを思い出したりして。
「……あ、なんかすげぇー懐かしいもん出てきた」
色々と仕分けをしつつ、クローゼットの中でも一番奥に入っていた箱を開けて。そう呟いた雪夜さんは少しだけ切なそうに、その箱の中の物をオレに見せてくれた。
「コレ、俺が初めて履いたスパイク」
今の雪夜さんが仕事で履いているようなカラフルなデザインのものじゃなく、シンプルな青色のスパイク。サッカーボール型の消臭剤と一緒に大切に保管されていたソレは、雪夜さんの宝物なんだと思った。
「公式戦で、初めてシュート決めたのがコイツなんだ……もうかなりボロボロだし、兄貴たちから何度もゴミ扱いされてきたヤツなんだけど。夢諦めても、いつまで経っても、コイツだけは捨てらんなくてな」
「小さい頃の雪夜さんも、きっと今頃笑ってくれてます。大人になった雪夜さんが、サッカーを好きでいること……夢はまだ、続いていると思うから」
「ありがとう、星くん」
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