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第900話
夢と思い出がたくさん詰まった、大事な大事な物。その姿を頻繁に見ることはなくても、このスパイクは雪夜さんの心の中でずっとその姿を見せていたんだと思った。
そして、それはこれからも変わることはないんだろうと。雪夜さんのはにかんだ笑顔を見たオレは、そんなふうに感じて。
この先も、夢を追い続ける雪夜さんの傍にいられることがオレの幸せになっていくから。
この部屋で雪夜さんと過ごした時間も、雪夜さんの帰りを待つあいだに独りで泣いた日々も。その全てを荷造りの箱の中に込めていくオレは、新しい家でこの箱を開ける時のことを思って一つ一つの物を丁寧に収めていったんだ。
「二人でやるとあっという間に終わっちまうな、部屋ん中は箱だらけだけど」
「本当ですね、なんだか不思議な感じです」
元々、整理整頓されている雪夜さんの部屋の物を片付けていくのに、オレと雪夜さんが思っていたほど時間は掛からなくて。殺風景になってしまった部屋、その中で隅に積まれたダンボールを見たオレたちは、少しだけ寂しさに浸っていく。
ソファーとベッドは業者の人に回収を依頼しているらしい雪夜さんは、残されたその二つのあいだに佇むと、小さく溜め息を零した。
「数日後にはこの部屋に入れなくなんだなって思うと、やっぱちょっと切なくなっちまう」
「思い出、いっぱい作りましたもんね」
「俺だけの空間で、俺とお前しか入れない場所だからな。狭いキッチンで料理したり、ちっせぇーバスタブで風呂入ったりさ……でも、どんだけ小さくても、狭くても、星がいねぇー時だけはこの部屋が広く感じたりしたんだよ」
「確かに、二人だとちょっぴり不自由なこともありましたけど。でも、この部屋で過ごした日々があるから、新しい家でも笑って暮らしていけるって、オレはそう思ってます」
オレより一足早く、雪夜さんはこの家を出て新しい住まいへ引越してしまうから。オレがこの部屋に入ることができるのは、たぶん……これが最後で。
オレも雪夜さんもお互いに思い出すことは、オレが初めてこの部屋に来た時のことだった。
「お前がベッドで俺がソファーで眠ったのって、結局二回だけだったな」
「雪夜さんがえっちなことするからっ、だからその……気がついたら一緒に寝るのが当たり前になっていたというか、なんというか……」
友達でも恋人でもなく、ただ兄ちゃんの知り合いで物凄く変な人だとオレは雪夜さんのことをそう思っていたのに。
初めて食べた雪夜さんの手料理に感動したことや、雪夜さんにされたえっちなことも嫌じゃなかった過去の自分を振り返ったオレは、嬉しくも恥ずかしい、なんとも言えない感情に支配されていく。
そんな中、オレの瞳を真っ直ぐに見つめて。
微笑んだ雪夜さんは、オレは向かいこう言ったんだ。
「……この部屋での最後、お前はどっちがいい?」
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